送球の“逸れ待ち”だった本塁突入 柳田に代走…伝わっていた小久保監督の意図

本塁へ突入するソフトバンク・川村友斗【写真:小池義弘】
本塁へ突入するソフトバンク・川村友斗【写真:小池義弘】

小久保監督は「柳田は早めに代えようかなと思って」

 指揮官の采配が逆転にまで繋がった。ソフトバンクは12日、敵地・ベルーナドームでの西武戦に2-1で逆転勝ちした。6回までノーヒットピッチングだった東浜巨投手が7回に先制点を献上。8回に昨季までチームメートだった甲斐野央投手から柳田悠岐外野手が同点打、中村晃外野手が勝ち越しの適時打を放って試合をひっくり返した。

 小久保裕紀監督が勝負をかけたのは8回だった。先頭の周東佑京内野手が二塁への内野安打で出塁すると、今宮健太内野手がすかさずバントを決めて、得点圏に走者を進めた。打席に入った柳田は甲斐野のフォークが浮いたのを逃さなかった。弾き返した打球は左中間を破る適時二塁打になり、試合を振り出しに戻した。

 ここで指揮官が動く。柳田が二塁に到達すると、迷うことなく、代走に川村友斗外野手を送った。まだ同点。試合は8回途中で、ここで勝ち越せなければ延長戦の可能性もある。先を見据えると、なかなか代えられない場面で、指揮官はスパッと柳田を代えた。勇気のいる決断と思いきや、小久保監督は「いや、そうでもなかったです」とあっさりと言い放った。

 11日は北九州での日本ハムと戦い、この日は移動ゲームだった。「同点だったんですけど、明日も明後日も試合があるんで、ちょっと柳田は早めに代えようかなと思って」。野手最年長である36歳の柳田の疲労も考慮した。延長戦の可能性もあるが、先の長いペナントレース、いかに主力選手にいいコンディションで戦い続けてもらうかも重要。状況を複合的に判断し、この場面で勝負を決めにいった。

 勝負をかけにいった指揮官の思い、ベンチの意図は間違いなくグラウンド上にも伝わった。指揮官が2軍監督時代から“参謀”として支えた三塁ベースコーチの井出竜也外野守備走塁コーチは、中村晃の打球が一、二塁間を抜けていくのを見ると、迷うことなく右腕を回した。タイミングはアウトだった。だが、右翼からの送球が一塁側に逸れたことで、川村の手が僅かに早くホームに触れた。

 井出コーチは試合後、こう語る。「いや、五分五分よりも(確率は低い)。逸れ待ちだった。代走を出していたし、勝負をかけていた。柳田を代えて代走を出していたので思い切っていった」。柳田に代走を送ったベンチの意図は十二分に分かった。延長戦は考えず、この場面で勝負を決める。多少のリスクは覚悟の上で、ホームに走者を突っ込ませるつもりだった。

 代走の川村も頭から本塁へと突っ込み、捕手のタッチをかいくぐってホームに触れた。勝ち越し打を放った中村晃は二塁ベース上で力強く拳を握り締めた。勝負をかけにいった指揮官、そして、それに応えた選手とコーチ。総力が結集されて掴んだ1勝だった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)