2軍降格になっても、すこぶる前向きだった。ドラフト2位ルーキーの岩井俊介投手は元気いっぱいに語った。「ここですよ、勝負は! この期間っす。マジで成長できそう」。4月4日のロッテ戦(PayPayドーム)でプロ初登板を果たし、救援で1回無失点。ただ、翌5日に出場選手登録を抹消された。2軍での日々も、自身のチャンスだと捉えていた。
春季キャンプはB組スタートだったが、オープン戦からA組に昇格。実戦で結果を残し、澤柳亮太郎投手、村田賢一投手と共にルーキー3人で開幕1軍入りを果たした。プロ初登板となったロッテ戦は7点リードの9回にマウンドに上がり、1イニングを9球で封じた。「点差はありましたけど、自分の投球というか、全球ストライクゾーンで勝負できたのはよかったです」。岩井は頷き、振り返った。
開幕から接戦続きで、ルーキーに登板機会はなかなか訪れなかった。いつ呼ばれてもいいような準備をしながら、初登板を待ちわびていた。前日3日の試合は延長12回の熱戦になり、ホークスは6投手を費やした。迎えた4日の試合は初回に打線が6得点。そのまま試合を優位に進め、7点リードの最終回、その時がやってきた。
「(ブルペンで)座っていたんですよ。若田部(健一投手)コーチから『9回、岩井ね』って言われて、ジャンプしたっす。『よっしゃキター!』って感じでジャンプしちゃった。気合入りすぎてて。『やっと来た!』みたいな。普通に立ったらいいのに(立ち上がる時)力強すぎて、飛んじゃった。ジャンプしちゃいました」
興奮の瞬間だった。同じくこの日デビュー戦となった澤柳亮太郎投手が8回のマウンドに向かうのとほぼ同じタイミングで、岩井も9回の登板を伝えられた。登板までに肩を温める時間はさほど長くはない。ここまでの試合、先輩たちの姿をブルペンで見て、岩井も準備の仕方を学んでいた。
「津森さんはすごいですよ。『津森』って呼ばれて『ヨシ!』みたいな。(呼ばれるまでは)マジでボーッとしてるんですよ、本当に。『この人、気合い入ってるの?』みたいに見えるんですけど……」。そう笑わせつつも、ルーキーイヤーから中継ぎとして登板を重ねてきた先輩の姿はお手本になった。1イニングを完璧に抑え、先発した大津亮介投手、そして澤柳と共にお立ち台にも上がった。
だが、その翌日、岩井は出場選手登録を抹消された。「(体の)開きが気になるって言われて。体が元気な時はそれでも抑えられるけど、疲れてきたら……」。岩井は倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から課題を指摘された。フォームの見直しを1つのテーマに、2軍降格が言い渡された。
もちろん悔しさは大きかったが、すぐに登板機会はやってきた。6日に四日市で行われたウエスタン・リーグの中日戦に登板し、1回無安打無失点。翌7日の同戦(ナゴヤ)では1点リードの9回に連投でマウンドに上がり、2死から連打を浴びて逆転サヨナラ負けを喫した。プロに入って初めて敗戦投手になった。
敗戦後のロッカールームで、岩井は涙を流した。「泣けてきちゃいました」。1人、肩を落としていると、小笠原孝2軍投手コーチに呼ばれた。1対1でのミーティング。「良い経験だったな」と励まされた岩井は「そうですね」と冷静さを装いつつ頷いた。ただ、内心は違う。「ばり我慢しました。そんなん言われると(涙が込み上げて)くるじゃないですか」。涙を堪えるのに必死だった。
2軍降格も、サヨナラ負けも、その1つ1つが貴重な経験になる。ペナントレースが開幕して2週間で嬉しさも悔しさも味わった。「1軍にいるときはちょっと気を遣ってるっていうか、あまり自分のやりたいことができていなかったところもあるので、ここでしっかりやりたいことをやってレベルアップしたいです」。
陽気なキャラクターの岩井であっても、1軍での緊張感ある日々で、やはり心身の疲労は溜まっていたよう。2軍では、もう1度、自身の現状を冷静に見つめられるいい時間になりそうだ。明るく前向きで、闘志と気合いに満ちた男。経験を肥やしにして、さらにレベルアップした姿で再び1軍に昇格してみせる。