前日の試合後に伝えられたプロ初スタメン 川村友斗の“初尽くし”に重なった偶然

ソフトバンク・川村友斗【写真:矢口亨】
ソフトバンク・川村友斗【写真:矢口亨】

「エスコンより楽天の方が近いから、その日に行くねって」

 忘れられない1日になった。ソフトバンクの川村友斗外野手が6日、敵地・楽天モバイルパークで行われた楽天戦に「7番・右翼」でプロ初スタメン出場。7回に先制の犠飛、9回にはプロ初安打となる適時打で追加点を生み、試合後のヒーローインタビューにも選ばれた。

 最初の見せ場は7回だ。1死一、三塁で迎えた第3打席。「ヒットを打ちたかったんですけど、自分が1番フライになりやすいボールを頭に入れていったら、いいコンタクトができた」。2球目の高めの変化球を捉えた打球は左翼後方への飛球になった。三塁走者の近藤が悠々と生還。先制の犠飛でプロ初打点をマークした。

 9回には1死三塁で左前適時打を放ってチーム4点目を生み出した。1安打2打点と気を吐き、スタメンに抜擢した小久保裕紀監督は「3打席も代打を用意していたんですけど、今日は川村に賭けてみようっていう中で、いい方に出ましたね。バッティングの状態は落ちていたけど、シーズン始まってあの集中力だったらどうなるかわからないじゃないですか。あとは第2の故郷でもあるし、よかったんじゃないですか」と称えていた。

 この日のスタメンを伝えられたのは前日の試合後だった。宿舎への帰り際に小久保裕紀監督から呼び止められた。「おい!明日スタメンでいくぞ」。福岡からの移動試合で主砲の柳田悠岐外野手が右翼で8回まで出場。ナイトゲームからのデーゲームということも考慮して、首脳陣は柳田をDHで、川村をスタメンで起用することを決めた。ファーム時代からお世話になってきた指揮官からの直接の通達に緊張感が一気に高まった。

「昨日の夜は緊張しました。なかなか寝付けなかったです」と迎えたこの日の楽天戦。記念すべき初スタメンに名を連ねた。息詰まる投手戦で均衡を破る犠飛、そして貴重な4点目を生む適時打と十二分の働きで、指揮官の期待に応えてみせた。

 最高の親孝行にもなった。この日の試合には北海道に住む家族もたまたま応援に駆けつけていた。実家がある松前郡は北海道の最南端で「(日本ハムの本拠地の)エスコン(フィールド)より楽天の方が近いから、その日に行くねって」。もともと決まっていた両親の観戦日程に、見事に初スタメン、そして初打点、初安打が重なった。

 初安打の記念のボールは適時打で生還した近藤健介外野手が受け取り、海野隆司捕手を通じて川村に渡った。「親にあげたいと思います」。ちょうど、この夜はその家族と一緒に食事する予定だった。その席で両親への最高のプレゼントを手渡したはずだ。

 大学時代を過ごした仙台の地で、たまたま来ていた家族の前で結果を残すとは、何の因果か。「まだまだ緊張するので、その気持ちを忘れずにしていきたいなと思います」。初々しく表情を緩めた川村。楽しみな若鷹がまたプロとして大きな一歩を踏み出した。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)