固定観念を覆す「高めはダメじゃない」 石川柊太が倉野コーチと遂げた変身

ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】

5回2安打1失点の好投で今季初勝利、節目の通算50勝を飾った石川

 変わった姿を披露した。5日に敵地・楽天モバイルパークで行われた楽天戦。ソフトバンクの先発マウンドに上がった石川柊太投手は5回を投げて2安打1失点と好投した。失点は自身の暴投によって与えた1点のみ。今季初先発で通算50勝の節目の白星を手に入れた。

 2点を先制してもらった初回をわずか12球で3者凡退に片づけると、2回も3人で打ち取った。3回先頭の岡島に中前安打を許したが、後続を打ち取った。5回に右中間へ三塁打を許した岡島をワイルドピッチで生還させたものの、味方の援護もあって、危なげのない投球だった。

 右腕の投球に小久保裕紀監督も称賛の言葉を送った。「春からずっとアピールしてきながら、なかなか登板が決められない中で、今週は有原を1回飛ばして火曜日に持っていこうっていう中での今日の先発で、しっかり結果を出した。節目の50勝でしょ? まだまだ勝ってください」。開幕から続く先発陣の好投に頷いた。

“ニュー石川”の姿がそこにはあった。この日、光ったのが高めへの意図的な投球だ。2回の島内の空振り三振、4回の浅村の空振り三振などは高めの真っ直ぐを振らせたもの。マスクを被った甲斐が腰を浮かせて高めに構えることも頻繁にあった。パワーカーブとの目線の揺さぶりも有効に使った。「狙っているところと全然違う部分もあったので一概にそうとは言えないけど、結果、振ってくれているのは大きいこと」とは言いつつも、86球のうち30球ほどが高めに投じられた。

 このピッチングスタイルは倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)が仕掛けたものだ。キャンプ中からあえて高めにもボールを投げ込むよう、二人三脚で取り組んできた。倉野コーチは「キャンプからずっとやってきたこと。石川の一番いい球を使うっていうところは考えてやってきているので」と明かす。

 石川といえば、スリークォーター気味な腕の出どころでボールを投じ、吹き上がってくるような真っ直ぐが武器でもある。石川自身のボールの性質、特徴を生かすには“高め”が有効だった。元来、野球の世界では“高めは禁物”“低めに集めろ”というのが通説だが、近年、メジャーリーグでは高めの真っ直ぐ系のボールが活用されており、倉野コーチも「めちゃくちゃ使います」と言う。

 倉野コーチは石川に対してキャンプ中から「高めだけではないんですけど、そこはもう昔は『高めは駄目』みたいなイメージだったけど『そうじゃないよ』っていう話はしている」と説いてきた。その成果が、この今季初先発という舞台で、見事に発揮された。

「春のキャンプから倉野コーチと、そこの磨きをかけていたんで。彼はもうそういう“高め勝負のピッチャー”として、という話をしていましたよね。それがこうやって、やってきたことが実現というか、結果に表れたんじゃないですかね」。小久保監督も取り組みが結果として出たことを手放しで称えていた。

「ここまでやってきたことと変わりなく投げられたのが大きかった。やってきたこと以上のことが出るわけでもなく、それ以下でもなく、やってきたことが素直に試合の中で出ていた。それが僕にとってポジティブな結果だった」。2020年に11勝をマークして以降、なかなか思うような結果を残せていなかった石川。この投球ができれば、チームにとって大きな1つのピースになりそうだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)