ロッテ戦で6回1失点…先発としてはプロ初勝利で「中継ぎの負担を極力減らしたい」
この瞬間を望んできた。決意が新たになったのは「父親になった日」だ。ソフトバンクは4日、ロッテ戦(PayPayドーム)でプロ初先発となった大津亮介投手が6回1失点の好投で、先発としてはプロ初勝利を挙げた。「ようやくスタートしたな、と思っています。最高な気持ちでマウンドに上がりました」と、お立ち台でマイクを握る。妻の支えと、愛息の誕生がこの1勝にまで導いてくれた。
初回、2つのアウトを奪ったものの藤岡に右翼席へのソロアーチを浴びる。2回も2人の走者を背負ったが、最後は愛斗を空振り三振に仕留めた。6回2死一塁、上田を左飛に仕留めて力強く拳を握った。3日は延長12回を戦い6人の投手を起用していただけに「いろんな投手が投げられていたので、極力負担は減らしたいと思っていました。去年中継ぎだったので、中継ぎのキツさもわかっている」。中継ぎ陣の負担も減らすために、闘志を燃やして上がったマウンド。満点の結果で応えてみせた。
ルーキーイヤーだった昨年は、46試合に登板して2勝0敗、防御率2.43。オフとなり小久保裕紀監督から直接、今季の先発転向を伝えられた。入団当初から抱いていた先発起用の希望は、新しい指揮官によって叶えられることになった。昨年12月の契約更改の場では、一般女性と入籍していたことを公表。決意が新たになったのは「父親になった日」の出来事だ。
「感動しましたね。妻も赤ちゃんを抱いて泣いていたので、うるっときました。(自分も)涙は出たと思います」
昨年10月、第1子となる男児が誕生した。出産の立ち会いについては「立ち会うかどうかは話し合って決めたんです。(妻は)『お母さんの横で生みたい』って、自分も『じゃあそうしよう』」と明かす。“産声”はすぐに耳に届いてきた。「僕は隣の部屋にいて、生まれてから部屋に入りました。なんか最初に声が聞こえたので、その瞬間すぐに部屋に行って。生まれたんだって思ってびっくりしました」。大津亮介が、1人の父親になった瞬間だ。
愛妻のお腹の中に新しい命を授かっていた中で、大津は1年目のシーズンを戦っていた。グラウンドの結果を求めるのはもちろん、家族の健康状態も気になってしまう。「遠征中は実家にいたんですけど、陣痛だとか大変な時期に僕は野球をやっていたので。シーズン最初の方よりは出産が近づくにつれて『もっとやらないといけないな』みたいな感情はありました」。母になろうとしている中で、自分には野球に集中させてくれた妻には、感謝しかない。
昨年10月16日、ロッテとのクライマックスシリーズ。3戦目に大津はサヨナラ打を浴びて、2023年の戦いが終わった。当時も「頭が真っ白になって、立てなかったんです……」と話していたが、我が子の出産があったのはその敗戦以降。「(福岡に)帰ってから生まれたので、悔しさとかも全部消えました。吹っ飛びました。悔しさもありましたけど、生まれた感動もあって……。なかなかあんなの味わえないですよね」と今だから笑える。
自身が父親になったからこそ「赤ちゃんを育てる機械っていうんですか? 色々と発達しているじゃないですか。昔の人はそういうのもなかった中でやっていたと思うとすごいです……」と、育ててくれた両親の偉大さを噛み締めている。自分に愛息が誕生して、半年が経った。「寝るのは早いですね。すぐに寝ています。そこから4時間ごとくらいに起きるんですけど、奥さんは『寝てていいよ』とは言ってくれますね。でもやっぱり泣いたら起きるので、一緒にあやしたりして」と近況を語る。家に帰り息子の顔を見るたびに、何度だって決意は新たになる。
「頑張らなきゃってなりますね。仕事が仕事なので、妻もそこを理解してくれていて色々と家事とか、子育てを“ワンオペ”してくれている。帰った時は僕もなるべくできることはやるようにしています。(子どもには)「周りに迷惑をかけない、優しくて思いやりのある子に育ってほしいです」
プロ初勝利は昨年6月18日の阪神戦(甲子園)で、1球で勝利投手となった。やりたいと思ってきた先発で掴んだ初めての白星。「去年とはまた違った、ひと苦労した1勝だと思います。去年の1勝とは違う嬉しさがあります」と特別な1勝になった。試合後の取材の時点ではウイニングボールについては「まだもらっていないので、多分忘れていますね」とはにかんだ。息子も含めた“大津ファミリー”が、スタンドで観戦していたこの日。父親としての頼もしい背中を、しっかりと見せることができた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)