知らない番号から電話「DeNAの森です」 仲田慶介の“約束”…粋すぎるプレゼントの舞台裏

ソフトバンク・仲田慶介【写真:竹村岳】
ソフトバンク・仲田慶介【写真:竹村岳】

財布の写真とともにSNSを更新「大切に使わせていただきます!」

 忘れられない言葉がある。ソフトバンクを10年間引っ張った先輩からもらった期待の言葉だ。「お前に一番頑張って欲しい」。誰よりも泥臭く、ひたむきに目指してきた目標。自分の背番号が変わったんだと、また実感するようなプレゼントだった。

 祝福と愛情を受け取った。ソフトバンクの仲田慶介内野手は、今月19日に育成登録から支配下選手登録された。2021年育成ドラフト14位でソフトバンクに入団。右投げ両打ちで、内外野を守れるユーティリティ性が最大の武器だ。そんな仲田は25日、自身のインスタグラムのストーリー機能を更新。財布の写真とともに「お祝いありがとうございます。大切に使わせていただきます!」と、言葉を綴った。

 贈り主は、DeNAに移籍した森唯斗投手だった。2014年から10年間、ソフトバンクに在籍していたが昨オフに戦力外通告を受け、DeNAに活躍の場を移した。これまで通算470試合登板、127セーブの実績を誇る右腕。大卒3年目、まだ1軍の公式戦で出場経験のない仲田とは、どんな接点があったのか。「森さんには良くしてもらっていたんです」。明かしたのは、昨年8月の出来事だった。

「バッティング手袋をあげたんです。筑後でウエートの時に。たまたま、トレーニングをしていた時に『手袋ない?』みたいになって、僕の(手袋)をあげたんです。その時に『支配下になったらなんか買っちゃる』みたいな。『頑張れよ』みたいな話をしたんです。退団される時もそんな話をしたので、支配下になってすぐに電話がかかってきて『おめでとう』って言ってもらいました。その数日後にドームに(財布が)届いていました」

 インスタグラムでは繋がりはあったものの、連絡先は聞いたことはない。祝福の電話が来た時、スマートフォンに表示されたのは知らない番号だった。「最初は誰かわからなくて。『俺だよ、俺』みたいな感じでした。最初はわからなかったんですけど『DeNAの森です』ってなって『あぁ、お疲れ様です!』みたいな。それで『おめでとう』『頑張ろうな』って言われました」。電話の相手、そして目的が祝福だったから、さらに驚かされた。先輩の優しさに触れた出来事だった。

DeNA・森唯斗から贈られた財布【写真:竹村岳】
DeNA・森唯斗から贈られた財布【写真:竹村岳】

 ホークスの2軍は昨年、ファーム日本一に輝いた。チームを率いていた小久保裕紀監督も、森の存在には「ファームですけど手本になる選手がいてくれると、正直、首脳陣はものすごく助かります」と全幅の信頼を寄せていた。朝の7時には球場入りし、先発登板に向けて準備する姿を仲田も見ていた。「簡単にミスはできないと思っていました」と、若手の背筋が伸びるほどのプロ意識を示し続けていた。今季が3年目の仲田にとっても“プロとして”を教わった1人だ。

「本当に朝早くから準備をされていて勉強になるところもありましたし、試合でも気持ちを前面に出してプレーされていた。尊敬する先輩です。テンポも良くてすごく守りやすかったですし、気持ちを前面に出して、早くから準備をされていたので。自分も絶対に守らないといけないっていう気持ちはすごくありました」

 3月19日に支配下登録されて、背番号は155番から69番となった。開幕1軍にも入り、プロ野球選手としての実感を噛み締める日々。そんな中でも、先輩からの祝福は「めっちゃ嬉しかったです。もっと頑張ろうと思いました」。大阪での開幕カードを振り返っても「やっぱり2軍とは別物の雰囲気がありますね……。雰囲気が違います」と、目指してきた舞台にいることはやっぱり幸せだった。初出場はまだだが、結果で恩返しするという決意が新たになった時間だった。

 昨季、ホークスの2軍はウエスタン・リーグで優勝。10月7日に行われたファーム選手権(ひなたサンマリンスタジアム)でも巨人を倒し、日本一にまで輝いた。その日の夜、小久保監督が企画したバーベキューが行われ、裏方スタッフや選手の家族まで参加していた。森が球団から戦力外通告を受けたと発表されたのは22日だったが「俺は多分、来年ここにはいないから」と声をかけられ、仲田も別れを察した。そして、肩を叩かれながら、こんな言葉をかけられた。「俺は、お前に一番頑張ってほしい」。胸が震えた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)