“小久保流”のスタメン発表…周東&東浜が明かす舞台裏 選手に浸透する“プロ意識”と美しさ

全員を集めてスタメンを発表するソフトバンク・小久保裕紀監督(中央)【写真は球団公式Xより】
全員を集めてスタメンを発表するソフトバンク・小久保裕紀監督(中央)【写真は球団公式Xより】

オリックスとの開幕戦、山川穂高が決勝の1号ソロ…試合前のスタメン発表を単独取材

 美しさがたっぷりと詰まったスタメン発表だった。信念を込めて、指揮官としての第一歩を踏み出す日だ。ソフトバンクは29日、2024年シーズンの開幕を迎え、オリックス戦(京セラ)に3-1で勝利した。同点の7回、山川穂高内野手が決勝の1号ソロを放った。初陣となった小久保裕紀監督にとって、嬉しい“監督初勝利”だ。そんな指揮官は試合前、自らの口でナインにスタメンを読み上げた。その舞台裏を周東佑京内野手、東浜巨投手の視点から語ってもらった。今年のホークスは「仲良しこよしじゃない」。

 前日からスタメンを知らされることは珍しくないが、2024年の開幕スタメンが告げられたのは試合当日。球場に到着すると、選手だけでなく裏方も含めた全員が三塁側ブルペンに集結した。中心に立ったのが、小久保監督だ。伝え続けてきたことを、改めてナインに訴えかけた。

「プロフェッショナルとは何かという話だけさせてもらいます。俺のプロという考えは、目の前の仕事に対して、情熱を燃やして誇りとプライドをかけて自分の仕事をやり抜くということと、替えのきかない人材になること。その中で、今日ここにいるメンバー、選手はもちろん替えのきかない選手を目指して頑張る、コーチも然り」

「BP、BC、SC、トレーナー、村上誠一さん、広報、データサイエンス、こういうメンバーが仕事に対して情熱と熱意を持って、替えの利かない人材になるんだという思いで取り組むことが、強い組織のあるべき姿になる。裏を返せば、替えのきかない人材が揃うということは、我々がうたうパ・リーグ優勝、日本一に対して、ここにいる全員が必要な人材になるということに繋がる。だから、今年1年、どうか自分のプロフェッショナルという定義からはみ出すことなく、チームの1つの目標に向かって、各々が誇りとプライドを持って取り組んでいきましょう」

 そしてスタメンを、1人1人読み上げると「さぁ行け!」と、ナインをグラウンドに送り出した。最初に名前を呼ばれたのは、リードオフマン。「1番・中堅」の周東だ。「“1番センター”……って1人1人。静かでしたけど、気が引き締まった感じがありました」と雰囲気を語る。「やれることというか、キャンプのはじめに言ったことをシーズンでもしっかりやりましょうと言われました」。改めて優勝という言葉でチームの気持ちが1つになった瞬間だった。

 プロ12年目を迎えた東浜も「“開幕やな”って感じがしました。いよいよ始まるなという感じです」と振り返る。33歳右腕は、投手陣では和田に次ぐ年長者。開幕を迎えたチームの表情を見ていても「みんなそれぞれ、いい緊張感があるなっていう。オープン戦とは違うなっていうのは感じました」と、背筋を真っ直ぐに伸ばしていた。

 東浜は開幕5戦目、4月3日のロッテ戦(PayPayドーム)で先発する見込み。「競争の中の1人」という位置付けで春季キャンプからスタートしたが、オープン戦では15回1/3を投げて防御率0.00。自分の力で、ローテーションの一角を勝ち取った。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は昨秋から「空間って大事なんで。そこら辺の立ち話でするのと、ちゃんとした部屋で話をするのとでは響き方が違う」と唱え続けてきた。東浜自身はどのようにして、開幕ローテ入りを伝えられたのか。

「監督に呼ばれて、倉野さんと監督室に行きました。直接『行くからな』っていう話をされましたね。選手それぞれにそういうことをやっていると思いますよ。そういう気配りっていうのは感じますね。ちゃんとしている人だなって」

ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:竹村岳】
ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:竹村岳】

 開幕投手を託した有原航平投手に、小久保監督は手紙で思いの丈を伝えた。グラウンド上での、雑談の延長のような形で伝えるのではなく、しっかりと選手に向き合い、自分の言葉で届ける。まさに小久保監督なりの選手への最大のリスペクトだ。東浜も「そういう雰囲気を作っているというのは感じます。いい緊張感がありますし、いい形で試合にも入っていける」と熱いものを受け取っていた。

「それ(リスペクト)は感じるので、選手もそれに応えなきゃって思いますし、すごくいい関係性っていうか。ちゃんと選手それぞれがいい距離感で、ある意味“仲良しこよし”じゃなくて、緊張感っていう1本、筋が入っている。それがあるべき姿だと思いますし、自分の中でもいいなって思います。周りを見ながらやってくれますよね」

 スタメンを告げる前、指揮官は裏方の肩書きまで出して、チームへの思いを表現した。西田哲朗広報も「監督はヘッドコーチの時(2021年)も要所でそうされるタイプでした。僕らもプロとしてやっている自覚がある。締まりましたね、背筋が伸びました」と、心に火がついた裏方さんの1人。東浜も「監督でチームカラーが出るじゃないですか。今年はそういうカラーなのかなと思います」とうなずいた。小久保監督の“らしさ”と美しさが詰まったスタメン発表。プロとしてのプライドと自覚を持って、ホークスは戦う集団になる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)