近藤健介は「2番」が理想? データが示す根拠…首脳陣の言葉から読み解く鍵は「栗原」

ソフトバンク・今宮健太(左)と近藤健介【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・今宮健太(左)と近藤健介【写真:荒川祐史】

「wOBA」や「+wRC」、OPSといった打撃指標で近藤は12球団トップ

 いよいよ3月29日、2024年のペナントレースが開幕する。小久保裕紀監督が新たに指揮官に就任したソフトバンクはオープン戦17試合を10勝5敗2分け、中日と並ぶ最高勝率で戦い終えた。12球団最多の66得点、18本塁打と打線の活発さが際立つプレシーズンだった。

 小久保新監督は19日の阪神戦を迎えるまでオーダーをコーチ陣に一任していた。キャンプの実戦、そこまでのオープン戦を通じ、コーチ陣の起用を基にして情報収集してオーダーのイメージを膨らませ、最後の5試合で指揮官自らスタメンを組んだ。その5試合から導き出される予想オーダーは以下のようになるだろう。

○オープン戦から見た予想スタメン
1(中)周東佑京
2(遊)今宮健太
3(右)柳田悠岐
4(一)山川穂高
5(左)近藤健介
6(三)栗原陵矢
7(指)ウォーカー
8(捕)甲斐拓也
9(二)牧原大成

 ポイントになるのは「2番・今宮健太」と「5番・近藤健介」だろう。かつて「2番」は「つなぎ役」とされ、まさに今宮はその役割に合う打者だ。一方でメジャーリーグのトレンドに端を発し、近年では「2番」にそのチームで最もいい打者を置くべき、という考えがある。ドジャースに移籍した大谷翔平投手が新天地でも「2番」に座り、1番のムーキー・ベッツ外野手と3番のフレディ・フリーマン内野手に挟まれていることからも、上位に好打者を並べるメジャーの考えが分かる。

 セイバーメトリクスの研究では、統計データから「最強打者は4番ではなく2番に置くべき」「基本的に強打者から順に並べるような形の打線が効果的」「ただ多少の打順の違いによって生じる得点数の増減はごくわずか」と示されている。“打線のつながり”を考えたくなるが、考え方はごくシンプルで、上位に強打者を集めてヒットや長打、四球を集中的に発生させる過程で自然に多くの得点を生む、というものだ。

 ホークスで「最強打者」と言えば、近藤健介外野手である。セイバーメトリクスの指標などでデータ分析を行う株式会社DELTAによると、打者が打席あたりにどれだけ得点増に貢献しているかを示す指標「wOBA」で、近藤は12球団トップの.424をマーク。柳田悠岐外野手は.391で12球団で6番目の高さだった。リーグの平均的な打者と比べて打席あたりの得点創出の多さを示す「wRC+」でも近藤は12球団トップ。よく知られる「OPS」なども含め、近藤の打撃指標は軒並み12球団で最も高い数字。メジャーリーグの考えで言えば、2番に相応しいのは近藤、ということになる。

○鷹フル的理想オーダー
1(中)周東佑京
2(左)近藤健介
3(右)柳田悠岐
4(一)山川穂高
5(三)栗原陵矢
6(指)ウォーカー
7(遊)今宮健太
8(捕)甲斐拓也
9(二)牧原大成

 小久保監督ら首脳陣が近藤を“山川の後ろ”に置きたい、と考えるのには理由がある。「山川の後の近藤っていうのがちょっといいかな、と思っている。出塁率の高い選手なんで、なるべく上位で早めに回すっていう考えもあるんですけど、ランナーが溜まっているときに返してくれる」と指揮官は語っていた。4番起用が濃厚な山川の後ろ、つまり5番打者に考えを巡らせている。

 塁が埋まっていない状況では、後ろの打者に怖さがなければ、相手バッテリーが山川との勝負を避けようとするのは想像に難くない。山川の後ろに近藤がいれば、山川と勝負せざるを得なくなる、との思惑が働くのは理解できるだろう。となれば、「2番・近藤」が実現するには、山川の後ろを打つ理想の「5番」が必要になるということだ。

 そこで鍵を握るのが栗原陵矢内野手とアダム・ウォーカー外野手の2人。オープン戦中、小久保監督が「栗原の状態がもう少し上がってくれば、ね」と語ったことがある。この「栗原の状態」というのがポイントだ。栗原が打率.275、21本塁打を放った2021年シーズンのような打撃の状態になり“山川の後”を任せられるようになると、近藤を上位に回すことにためらいはなくなるだろう。

 移籍初年度、初めてのパ・リーグということで、負担の少ない「7番」での起用が見込まれるウォーカーもアジャスト次第で、より上位を打たせていい存在だ。もともと巨人時代は守備力が大きな欠点となり、出場機会が得られなかっただけ。オープン戦では12球団トップの5本塁打を放ったように、打力に関しては申し分はない。

 確かに昨季ソフトバンクは「5番」に苦しんだところはある。5番打者の打率.209、6本塁打、OPS.574はパ・リーグで最低。チームの中で見ても、8番と9番に次ぐ低さだった。中村晃外野手の36試合を筆頭に、牧原大成内野手と栗原が34試合、柳町達外野手が24試合に起用され、最後まで固まることはなく、栗原と牧原大はシーズン終盤に戦列を離脱した。

 ただ、今年は栗原、そしてウォーカーという5番の候補になり得る存在がいる。「2番・今宮」の思惑は、1番で起用が見込まれる周東が出塁した場合の、盗塁をはじめとした様々な作戦面を考慮してのことだろう。ただ、試合序盤での送りバントやエンドランは、セイバーメトリクスでは非効率とされる。昨季1打席あたりに投げさせた球数も今宮の3.6球に対して、近藤は4.5球と多く、見極めや粘りの面でも近藤に分がある。

 なにより、2番と5番では、シーズンを通して打席数にして40〜60打席ほどの差が出るとされる。昨季のホークスでも2番の651打席に対し、5番は608打席と、43打席の差があった。決して今宮が悪い打者というわけではないが、「wOBA」はリーグ平均に近い.304。「wOBA」が.424を誇る近藤と比較すれば、さすがに及ばない。セイバーメトリクスの視点で言えば、誰よりもいい打者である近藤やそれに次ぐ柳田に、より多くの打席数を与えなければもったいない、となる。

 1番には足のある周東を置いているが、ここを固定できるかどうかも、周東が3割台後半から4割超という高い出塁率を残せれば、の話だ。1番には高い出塁率が求められるだけに、周東の打撃の状態が上がってこなければ「1番・近藤→2番・柳田」や「1番・柳田→2番・近藤」のように、単純にチーム内の好打者である2人を上位に置き、山川、栗原、ウォーカーを並べてしまう、というのも面白いオプションではないか。

 小久保監督が「(近藤は)出塁率の高い選手なんで、なるべく上位で早めに回すっていう考えもある」と語っているように、首脳陣には近藤を5番ではなく、上位に置く考えもある。打順はデータだけではない、首脳陣の様々な思惑や考えまで反映されて決まるもの。あとは様々な要素を加味した上で、どう決断を下すか。注目の2024年シーズンは29日、京セラドームでのオリックス戦で幕が開ける。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)