サウナで行われた“突撃取材”…支配下を争い「今、どういう気持ち?」 緒方理貢への“ド直球質問”

支配下登録が発表された会見の様子【写真提供:西田哲朗広報】
支配下登録が発表された会見の様子【写真提供:西田哲朗広報】

支配下登録の数日前の出来事…西田広報から切り出し「本読んでる時にごめん」

 純粋な思いで、本音に迫った。2人きりの空間。文字通り“裸の付き合い”だった。ソフトバンクの仲田慶介内野手、緒方理貢外野手、川村友斗外野手が支配下登録された。裏方さんとしてチームを見守る西田哲朗広報も「彼らが支配下になりたいという気持ちっていうのは、相当強いものを感じていました」という。その中で、緒方に対して「すごい」と感心させられた出来事があった。

 3人は春季キャンプからA組に参加し、完走。対外試合、オープン戦でも結果を残していたが、西田広報は「本人たちは1試合、結果が出ないだけですごくロッカーで落ち込んでいるというか『打てないんです』っていう話も聞いていました」と明かす。3人が同時に支配下になる保証はどこにもない。競争相手が真隣にいるだけに、結果に対して敏感になっている姿も目にしていた。裏方さんの1人ではあるが、プロの先輩。何より、チームの勝利を願う1人として、西田広報も3人に声はかけていた。

「『十分、結果を残していると思うよ』って。そんなナーバスになってより結果が出なくなるのも嫌だったので、結果は残ってきているし、自信を持っていったらいいんじゃないかとも思っていました」

「今オープン戦が始まってレギュラー陣が出ていて、途中からの1打席で打つのって本当に難しいんです。その難しさは僕も現役の時に感じていました。スタートで出るよりも、途中の1打席2打席って本当に難しい。その中で彼らは、その能力を発揮できないことを悩んでいることがもったいないと思ったので『結果を残してきたから自信を持ったらいいんじゃない?』って。『今まで通り、ギラギラしていったらいいんじゃない?』ってことも言ったりしていましたね」

 支配下登録の会見が行われたのは19日だった。その数日前、PayPayドームでのナイターの試合後。サウナで緒方と2人きりになったという。「緒方も僕も本を読みながらで、彼の時間なのであんまり邪魔したくなかったんですけど『ちょっと、本読んでる時にごめん』みたいな感じで」。支配下の枠を争い、毎日が緊張の日々。広報として、プロ野球選手を応援する1人として、純粋な本音が聞きたかった。

「彼らが今、どういう気持ちでプレーしているのかっていうのを知りたくて。彼らが支配下になる5日くらい前ですかね。どういう気持ちでやってるの? って話をしていたんです。今、率直にどういう気持ちなのかを知りたくて。そういう気持ちってなかなかなれないと思うから、素直に、純粋に『気持ちを教えてくれへん? やっぱり毎日ドキドキする? 支配下の電話がいつ来て支配下……』とか、ドキドキするものなのかなって思って」

 野球選手としてエリート道を歩んできたわけではなくとも、支配下枠を争う緊張感は誰もが味わえるものではない。西田広報も2009年のドラフト2位で楽天に入団しただけに、育成契約は未経験だ。「育成から支配下に上がる、上がらないっていう心境は相当ドキドキするものだと思うんです。野球選手はいつクビになるかもわからないですし、秋になるといつクビの電話がくるかわからない」。メディアの前での“かしこまった回答”ではなく、1人の選手としての本音を聞き出そうとした。緒方の答えは、しっかりと地に足がついていた。

「緒方がすごいのが『マイナスなことは考えないです』『支配下になれるとかも、そういうことも考えず、1日1日を過ごしていこうって気持ちでやっています』『あんまり支配下になれると思っていてもなれなかった時に落ち込みますし、なれるかどうかドキドキしていても仕方ないので』って話をしていた時に、しっかりしているなって、割り切って自分のやることができているなって思いました」

ソフトバンク・緒方理貢【写真:矢口亨】
ソフトバンク・緒方理貢【写真:矢口亨】

 緒方も西田広報と2人きりになった瞬間をしっかりと覚えているという。「『どんな心境?』みたいな感じですよね。来る時が来れば、電話は来るだろうと思っていました。なりたい気持ちはありましたけど、そこばかりを考えていても……。なるようにしかならないと思っていました」と振り返る。「チャンスはあまり多くなかったし、1打席1打席で結果を残すしかなかった。いい準備をすれば必ず出ると思っていました。“絶対に打たないと”とかじゃなくていつも通りのことをやれば結果が出る、と」と地に足はついていた。

 支配下昇格という形で報われた。2桁になった今振り返ってみても「自分ができないことをやろうとしなかったことがよかったと思います」と、自分の“あり方”が間違いじゃなかったことは証明できた。1つの通過点を叶えた今、次の目標については「まずは開幕1軍。その先は試合に出たい気持ちが強いので。最初は途中からだと思いますけど、1打席で結果を残していきたいです」と未来を力強くにらむ。ちなみに、サウナで読んでいた本は「漫画です。『ダイヤのA(エース)』です」と笑って教えてくれた。

 会見は19日の11時から行われた。西田広報は「僕らは18時のナイターの時は10時くらいには球場で準備をしているんです。彼らも、会見が午前にあったのでそれくらいには来ていて、朝イチでロッカーで会うわけです。その時の表情が、ちょっとホッとしていました」と明かす。「僕は冗談っぽく『どうしたん? こんな早く来て』って言って(笑)。そうしたら、嬉しそうに笑って『え!?』って感じでした」と笑って言えるのも、3人が自分の力で2桁を掴み取ったからだった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)