記憶にないほどの不振…和田毅に起こっていた「おかしなこと」 海野&甲斐が証言する“兆し”

阪神とのオープン戦に先発したソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
阪神とのオープン戦に先発したソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

5回4失点も「内容は全然違う」…前回は阪神2軍戦で4回4失点

 ソフトバンクの和田毅投手が19日、阪神とのオープン戦(PayPayドーム)に先発した。5回4失点という結果を受け止めつつも「結果は良くないですけど、前回とは全然違うと、自分でも投げていてわかったので。ようやく“投げているな”っていう感覚」と表情は前向きだった。前に進んだという確かな証が、サインとなって体に表れていたからだ。海野隆司捕手、甲斐拓也捕手が感じた“兆し”とは――。

 初回は3者凡退。2回1死で佐藤輝に左越え二塁打を浴びたものの、ホームは踏ませなかった。3回から3イニング連続で失点し、5回90球。8安打、5三振という内容だった。「自分の投げている感覚、体の反応も、相手の打球も飛び方もそうですし、全然違います」と頷く。「内容は全然違う。前はね、誰でも打てるよねみたいな感じだったので」と、確実に前進していることを感じていた。

 前回登板は12日。春季教育リーグの阪神戦(タマスタ筑後)だった。井上広大外野手や豊田寛外野手ら、その時は2軍管轄だったメンバーに対して4回8安打4失点。最速は140キロにとどまり、直球ではなく変化球でかわすような投球内容。降板後も、「何も話せることはない。今のままでは無理だと感じています」と言うほどだった。1週間の中で何を変えながら調整してきたのか。

「本当に色々です。たくさんありすぎて1つには絞れないんですけど、フォーム的なこともそうですし。ちょっとしたアドバイス、話からヒントをもらったりしました。グローブも替えてみたり、スパイクも替えてみたり。その中でしっくりくる部分が色々とありました。何もしなかったら前回みたいな、ね。前回はどうやって投げているのかわからないくらいの感じで投げていたので。それがようやく、しっかりと体が使え出したなっていうのは感じています」

春季教育リーグの阪神戦に登板したソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
春季教育リーグの阪神戦に登板したソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

 和田にとって、それほどまでに12日の登板の内容は考えさせられる、悩ましいものだった。降板後は「全部、全部ですね。ストレートじゃなくて全部が力が入っていない状態なので」と、改善点を探す作業の繰り返し。プロのキャリアを振り返っても、あることがきっかけとなって急に状態が上がる経験はあったというが「今までそれはあったんですけど、今回はそれがないので。どうしようという感じです。難しいですね」とも話していた。登板翌日の13日には、試合前練習を終えるとブルペンへ。1人で黙々とネットスローを繰り返していた。

ブルペンでネットスローするソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
ブルペンでネットスローするソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

「(19日の内容も)変化の仕方も、投げていてしっくりはきていないんですけど、もうそこも考えられないくらい、前回はフォームがぐちゃぐちゃだった。『そりゃ打たれるよな』って感じで投げていた。狙ったところに行かないのがほとんどでしたし、これほど狙ったところに行かないのは何年ぶりかなっていう。覚えていないくらいです。こんな時期に方向性が出てきたことは、自分でも記憶にないです」

 確かな兆しは、指先にも表れていた。「もう取っちゃったんですけど(中指の)皮が固くなって、取れそうになっていました」と、投げているボールが指にかかっている感覚はしっかりあった。「ようやくですね。こういうことがいつもはキャンプやオープン戦で出てくるんですけど、それが今頃出てくるっていうのがおかしなこと。“今頃かい”って感じですけど」と苦笑いしつつも、今だから冷静に振り返られる。

 前回登板、バッテリーを組んだのは海野だった。後輩という立場を踏まえつつ「良くはなかったと思います。コントロールもできていなかったですし、強さもあまりなかった。気持ち悪さは(試合の)1球目からありました」と、1人の捕手としての意見を話す。1週間が経ち、舞台はPayPayドームに移った。この日は「高谷コーチからは『どう良くないのかはベンチから見ておいて』と言われたので、今日の試合はそういう目で見ていました」と明かす。和田の変化、状態について目を光らせて展開を見守っていた。

 今回、バッテリーを組んだ甲斐は「どんどん良くなっていると思います。前回よりも今回という感じで、変なふうには捉えていないと思います」と代弁する。コミュニケーションを取っていても、和田の表情が前向きになっていることも感じ取っており「ですね。そんな感じだったので、いいことだと思います」と頷いた。試行錯誤を繰り返してきた結果は、受けていたボールからもしっかりと伝わってきたようだ。

 倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は、投球内容に「やっと本来の感覚で投げ始めた感じ」と印象を語る。コーチとしてのコミュニケーションも「この状態になっている原因を追求して、アプローチしていました。考えられる全ての可能性をこの1週間で潰していこうということで、全てにおいて確かめてきました。本人が気づいたことあったので、それはすごくよかったです」と代弁した。

 次回登板は中6日で26日、ウエスタン・リーグの広島戦(タマスタ筑後)になる。和田も「精度的に直すところはあるんですけど、いい方向には行っていると思います」と語った。4月2日、ロッテ戦(PayPayドーム)での登板は決まっている。あと2週間、最善を尽くして、2024年のスタートを切る。

(竹村岳 / Gaku Takemura)