どうやって巨人・岡本和真に弟子入り? 先輩が繋いだ縁…佐久間拓斗を変えたオフ

ソフトバンク・佐久間拓斗(右)と牧原大成【写真:本人提供】
ソフトバンク・佐久間拓斗(右)と牧原大成【写真:本人提供】

ともにリハビリ組にいた牧原大成が岡本和真との縁を取り持つ

 先輩が繋いでくれた“縁”がある。だからこそ「死ぬ気で」結果を残してみせるつもりでいる。育成3年目の佐久間拓斗内野手は、2021年の育成ドラフトで8巡目指名を受け、福島県立田村高からホークスに入団した右の大砲候補だ。ここまで2軍でも公式戦出場はなく、3、4軍が主戦場だが、一歩ずつ成長を見せてきている。

 5日に行われた九産大との3軍練習試合では、今季初本塁打を放った。佐久間にとって「右にホームランがいったんで、ちょっと成長しているなと思いました」と、手応えを感じる一発だった。今までの本塁打はレフト方向に引っ張ったものがほとんどだったが、この日は狙った右方向に良い角度で打球が飛び、打球速度も160キロを計測していたという。

 右方向への打球に手応えを感じたのには、オフに弟子入りした意外な人物からの教えが生きていると感じたからだ。

「僕、岡本和真さんの自主トレに行かせて貰ったんです」

 侍ジャパンのメンバーとしてWBC優勝にも貢献した球界を代表するスラッガーである巨人・岡本和真内野手。その岡本が行う自主トレに、佐久間はこのオフ、参加していたという。「岡本さんってどこにでも飛ばすじゃないですか。それがすごい」。岡本に憧れ、打撃フォームを含め、どうやったら近づけるのかを考えながら取り組んできた。だからこそ、今までと違った右方向に放った一発に成長を感じた。

 ただ、全く面識のなかった日本を代表するスラッガーと、佐久間はどうやって繋がったのか。「実は牧原(大成)さんに紹介してもらったんです」。昨季終盤、リハビリ組にいた佐久間は、右手首の骨折で離脱した牧原大成内野手と練習を共にする機会を得た。

「その時にちょっとかわいがってもらって、ご飯に連れていってもらったんです。その時に『誰の自主トレ行きたいの?』って聞かれて『岡本さんのところに行きたいです』って言ったら、繋いでくれたんです」

 牧原大と岡本はWBCを戦った侍ジャパンでもチームメートだった。先輩の優しい声掛けに、佐久間は意を決して「岡本さん」と名前を出した。佐久間自身も今季が育成3年目。背水の思いと覚悟があるからこそだった。牧原大はわざわざ岡本にコンタクトをとってくれた。そしてオフの自主トレに参加できることになった。

 岡本と共に過ごした自主トレの日々は「もう一緒にいるだけで全てが印象的でした。バッティング練習は見るだけでも(勉強になった)。その中で、自分にもしっかり1つ1つ教えてくれて。ダメなところもちゃんと言ってくれたし、その直し方とかも教えてくれた」と貴重な時間になった。パワーは認められたものの、「僕には間がなかった」と打撃での間の作り方、パワーを生かすためのイロハを学んだ。

 自主トレが終わってからも、そこで学んだことを意識してやってきた。ようやく始まった対外試合で、いきなり飛び出した自らの成長を示す本塁打。佐久間にとって大きな1本だった。

 縁を繋いでくれた牧原大からも多くの刺激を受けた。「牧原さんも育成上がりじゃないですか。でも、死ぬほど頑張ってここまで来た。『今の育成選手は気合いというか全力さがない』みたいな本音もいろいろ聞かせてもらって、本当にこの人凄いなって。こういう人が1軍で活躍するんだと思いました。心構えみたいなのがすごくカッコイイ。自分も嫌われていいから、自分のやるべきことをやっていこうと思いました」。

 オフの契約更改後にも育成選手に苦言を呈していた牧原大の言葉を直に聞き、胸に響いた。佐久間は自分のことを負けず嫌いだと思っていたが、牧原大の話を聞き「1ミリも届いていなかった。だから、まず気持ち的に負けちゃダメだなって。それからは気持ちが折れないように、意識しています」と、ハッとさせられた。

「もうやるしかない。死ぬ気で、今年で終わりだと思ってやっています」と佐久間は目をギラつかせる。3年目という数字はやはり今までとは違う。「まずは3軍で結果を出して、2軍でしっかり試合に出て、最終的には牧原さんに追いつきたい」。“ナニクソ魂”で駆け上がってきた先輩の背中を追い掛ける、覚悟の1年を過ごす。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)