アピールしなければならない立場にいる。様々な思いを抱きながらも、とにかく前に突き進むしかない。ソフトバンクの古川侑利投手は、結果と進化を追い求めて腕を振っている。
ウエスタン・リーグが開幕した15日、古川の姿はタマスタ筑後にあった。B組でキャンプインを迎えたものの、アピールが功を奏してキャンプ途中でA組に昇格。支配下復帰に猛チャージをかける2月を過ごし、3月はここまでオープン戦3試合に登板している。ただ、ハイペースが祟ったのか、思うような結果は出ていない。この日は“1軍管轄”ながら2軍戦に参加していた。
古川はこの日、4点ビハインドの8回にマウンドに上がった。ゴロアウト2つと一邪飛で簡単にこのイニングを片付けると、9回も続投。危なげなく2死を奪った後にストレートの四球を与えたものの、最後は変化球で空振り三振。無安打無失点と好投した。
登板後の古川は課題も口にしたが、その表情からは充実感も滲んだ。四球を与えた場面を反省したものの、これにも意図はあった。「ちょっといろいろやりすぎました。重心の位置を変えたりとかいろいろやっていたら、いつの間にか四球を出してしまいました。簡単に2死になって余裕もできたので。ちょっとやりすぎましたね」と頭をかく。
登板の中で気付いたことがあったため、ふと軸足で立った時の重心の位置をややかかと寄りにしてみたという。ただ、それを意識しすぎたせいで、抜け球が続いてしまった。「試そうと思っていたことをより強く意識して、もっと良くなるんじゃないかって思ってやったんですけど、ダメでした。欲張りました」と、試行錯誤の中で与えた四球だった。
結果だけを求めるのではなく、登板の中でなにかしらレベルアップのヒントを掴もうと必死だった。「現状、僕の持っている球、今年の球質的に空振りをバタバタ取れる段階には来ていない。倉野コーチと話したんですけど、普通に『打たせて取る投球もやっていいんじゃないか』っていう話になって」と明かす。
これまでは空振り、三振を奪うことを意識してきた。直球で押してフォークで仕留めるスタイルが持ち味でもあったが、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーターとの会話の中で、古川自身の考え方の幅は広がった。
「視野を広げて、そういった意図でゲームに入って、ほぼほぼその通りに出来たので、そこはすごく良かったですね。1軍の時は空振りとか三振を取ろう、取ろうって思って、やっぱりカウントが苦しくなって、キツいなってなっていたので。結局、ピッチャーはアウトを取ればいいんで、そうやって視野を広げるのも大事かなって思いました」
現状で言えば、ウイニングショットであるフォークの感覚はあまり良くない。そこでカットボールやチェンジアップを有効に活用して、打たせて取るスタイルで挑んでみた。当然、フォークの精度を取り戻す作業も続けているが、「今日はとにかく打たせる」という目的を持ってマウンドに上がり、手応えのある内容だった。
昨季終了後に戦力外通告を受け、育成選手として今季に臨む。オフから「これまでにない下克上」を志し、自主トレでも徹底的に自分を追い込んできた。その成果はキャンプでも発揮された。「立場的にもあれだったんで、とにかく自主トレから追い込んでやってきて『よーいドン』でいい姿を見せられるようにっていうのを心がけてきました。キャンプ中もそれで1軍に上がれて、いい感じのパフォーマンスが出来ていたので」と、想像以上のスタート切ることができた。
育成から支配下に復帰するには“圧倒的な結果”を求める必要がある。当然、そう意気込んできた古川だが、オープン戦3試合はいずれも3人でイニングを片付けることが出来ていなかった。オープン戦に入るまでがかなり順調だったからこそ、余計にもどかしさを感じているのでは――。そう問うと「そうっすね、ありますけど……ありますね。今、あるっすよね……」と正直な胸の内を明かす。
特に13日の巨人戦は気持ち的に堪えるものだった。「この前はきましたね、ホームランを食らったんで。いや、あそこはすごい自分の中でも大事な試合だと思って意気込んでいたので痛いですね、正直。でも、もう(あの試合が)戻ってくることではないので、また先を見据えて。逆にあの時があったから良かったなって思えるようにステップアップできたらいいなと思います」と悔しさを前向きな言葉に変えようとしている。
「スモールステップアップ、それをやっていった先に待っているんじゃないかなって思ってます」。結果が出ないと一見、足踏みしているようにも見えてしまうが、キャンプと比べれば「スモールだけど、確実にステップアップはできている」という。もっと結果を残したい思いは当然あるものの、日々、新たな取り組みを繰り返し、少しずつでもレベルアップを目指す。立ち止まることなく突き進むのが古川のスタイルだ。
「もちろん開幕前に支配下に戻りたいです。そこが1番ですけどね。形はどうであれ、とにかくバッターを打ち取ればいいので。また新しい自分を見つけながらやっていけたらなと思います」
完璧を追い求めるが故に、自らを苦しめてしまうこともあったが、模索する中で見えてきた新たな自分。開幕が近づき、より“支配下復帰”を意識する時期でもある。「まだまだじゃないですか。やっぱり上で結果を出してナンボだと思うので。今日2軍でいろいろ試しながらできたことが、そのまま上で出来たらすごくいいのかなと思います」。地に足つけて、日々を過ごしていく。その先に支配下復帰があるはずだ。