驚きだった1軍合流「3軍に行け、かと…」 初打席で初安打…石塚綜一郎が返したい“恩”

ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:竹村岳】
ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:竹村岳】

6日朝に通達された1軍合流「とりあえず3日間だけ1軍に」

 5年目で巡ってきた待望の“1軍デビュー”だった。ソフトバンクの石塚綜一郎捕手は、8日にZOZOマリンスタジアムで行われたロッテとのオープン戦に代打として途中出場。オープン戦とはいえ、1軍初打席でいきなり中前安打を放ち、快音を響かせた。

 1軍合流の知らせは、春季教育リーグ・阪神戦で関西遠征中の6日朝に聞かされた。清水将海2軍バッテリーコーチに呼ばれると「明日の試合が終わったら千葉に行くから。とりあえず3日間だけ1軍に参加するから」。突如舞い込んだ“1軍合流”の通達に石塚は驚きを隠せなかった。

 打撃が持ち味ながら、教育リーグではその時点で6打数無安打と結果を残せていなかった。「正直、『3軍に行け』かと思いました。おいどんカップに行ってこいって言われるのかと……。すごく嬉しかったですよ。でも、めっちゃびっくりしました。教育リーグも全然打っていなかったので……」。昨季、ファームの非公式戦で計22本塁打を放った石塚は、6日朝のことを興奮気味に振り返る。

 3軍でどれだけ打っても、チーム事情や枠の関係もあって、なかなか2軍にさえ上がれなかった。だからこそ驚きが大きかった。今回の1軍合流は、谷川原健太捕手や海野隆司捕手といった1軍捕手が2軍戦で実戦機会を確保するための措置でもあった。それでも、そこで代わって1軍に合流する選手として名前が挙がるのは、球団内での期待の表れだろう。

「不安でしかなかったです。1人でドキドキしてました。打席に立つのとかイメージしたりして」。遠征先の大阪から1人、新幹線に乗って千葉へと向かった。「そんなすぐ打席には立てないだろうと思ってました。もし立てることがあるなら、本当にありがたいなと思ってたぐらいなので」。そんな想像とは対照的に、チームに合流した8日のロッテ戦、9回にいきなり“初打席”は巡ってきた。

 試合が後半へと入ると、首脳陣から声が掛かった。「海野(隆司)のところで回ってきたら、代打で行くぞ」。緊張がピークになった瞬間。初めての1軍、初めての球場、それでも石塚は臆することなく初球からスイングを仕掛けた。2球で2ストライクと追い込まれはしたが、5球目を打ち返した打球は中前へと抜けていった。オープン戦とはいえ“1軍初打席初安打”となった。

 石塚は「たまたまです」と謙遜しつつ「いつも通りずっと真っ直ぐを狙っていて、真っ直ぐ狙いでも最初のスライダーに反応できていたし、良かったかなと思います。村上(隆行)コーチも『初球から振りに行けたのはいいこと』って言ってくれました」。浮き足立つことなく、いつも通り、今までやってきたことを発揮することができた。

 帰り際には、小久保裕紀監督にも声を掛けられた。「バッティングの方では断トツの数字を残しておけよ」。去年まで2軍監督だった指揮官は当然、石塚の実力も課題も把握している。1軍首脳陣には昨季までファームでコーチを務めていた面々が並ぶ。石塚も「初めてっていう方も(ほとんど)いなかったですし、いろいろと声を掛けてくれる方が多かったですし、助かりました」と笑顔で振り返る。

 今オフ、石塚は初めて甲斐拓也捕手の自主トレに参加した。技術面や考え方のみならず、甲斐から聞く育成時代の話は心に刻まれた。中でも「何かしら自分の長所を伸ばすこと。短所を磨くことや無くすことも必要だけど、とりあえず長所を伸ばせ。何かしら目立たないと育成はやっていけない」という、甲斐自身が身をもって感じてきた話が深く印象に残っている。

 甲斐の場合は“甲斐キャノン”と称されるようになったスローイングやブロッキングがそれだった。石塚の長所はやはりパンチ力のあるバッティングだろう。小久保監督からの言葉にもそれは表れている。2軍にいても現状、出場機会は多くない。それでも、甲斐からは「(出てなくても)声でも何でもいいから、何か1つ光るものを見せろ」と鼓舞されたという。

 育成から日本を代表する捕手へと駆け上がった先輩は、石塚の目にどう映ったのか――。「今まで絶対に超えられないと思っていた。1軍の、というか日本代表のキャッチャーじゃないですか。捕手のスキルとか考え方に関しては本当にめちゃめちゃ勉強になりました。でも、一緒に練習させてもらって、バッティングでは勝負できるところはちょっとあるんじゃないかと思ったんです。『憧れるのをやめましょう』ですね」。現ドジャース・大谷翔平投手が発した“あの言葉”を引用し、石塚は謙虚に語った。

「僕ら育成には時間がない。5年目ですし」。危機感は常に抱いている。憧れている時間はない。様々なことを教えてくれた大先輩と勝負できる選手になるために、自身のやるべきこと、磨くべきところに、徹底的に力を注いでいく。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)