周東佑京が定着するための鍵…中村晃が語る“1個の四球”の意味 1番打者としての素質とは

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

2014年には176安打で最多安打…経験値はチーム内でもトップクラス

 積み上げてきた経験の一端を、惜しみなく伝えた。目指しているのは確固たるリードオフマンだ。ソフトバンクの周東佑京内野手は春季キャンプを振り返り、中村晃外野手から打撃面のアドバイスをもらっていたことを明かした。今度は中村晃の視点から、1番打者としての素質を語ってもらった。「レギュラーになるなら、そこが大事」という最大の“鍵”とは――。

 中村晃は昨シーズン、1番打者として62試合に先発した。176安打でタイトルを獲得した2014年も、同打順で99試合に出場するなどリードオフマンとしての経験値はチーム内でもトップクラスだ。通算出塁率.364の選球眼に加え、打順や状況に対する対応能力、勝負どころでの集中力など、求められる役割に応えながら1387安打を積み重ねてきた。周東とも「先頭打者としての、1番バッターとしての、初回の打席の入り方はポロッとどうやったらいいですかみたいな話は試合前にしました」とやり取りの一部を明かす。

 周東は、中村晃のような打撃スタイルを「できないと思っていた」と、自ら遠ざけていた部分もあったという。通算打率.241、通算出塁率.301。球界屈指の俊足があるからこそ、打撃面に課題を抱き続けてきたことは間違いない。中村晃の目線から、周東のリードオフマンとしての“素質”はどうなのだろうか。「選球眼は悪くない」としつつも「レギュラーになるなら、そこが大事です」という最大の“鍵”を語り出した。

「調子が悪い時の、1個の四球を取るというところとかができるようになれば、レギュラーになってくるんじゃないですか。なんとか1個、四球を取ったり、綺麗なヒットじゃなくていいんです。めちゃくちゃな内野安打を“良し”と思えるになれるか。佑京は(結果の中に内容も)求めるタイプだと思うので」

 長いシーズンを戦っていれば、常に好調ということは絶対にない。周東も昨季、9月&10月は打率.330で月間MVPを獲得したものの、5月や6月は打率1割台に沈んでいた。悪い時期を、どれだけ短くできるか。必死に1つの四球を奪って「4打数無安打を3打数無安打にできるかどうか」が、大きな鍵だ。「そこでなんとかするっていうのが大切ですよね。ダメだからダメだといけないので、そこは大事です」と中村晃も続ける。自分だけの形と、日々の地道な姿勢が、シーズン全体にもきっと大きな影響を与えていくことを知っている。

ソフトバンク・中村晃(左)と周東佑京【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃(左)と周東佑京【写真:竹村岳】

 中村晃自身は、1番打者として試合に入る時、何を大切にしているのか。その考え1つにも、プロの世界で17年間を生きてきた自信と矜持がにじむ。チームの勝利を優先する、まさに職人のような考えだった。

「やっぱり、僕は初球からどんどん行くタイプではない。どっちかといえば最悪を、最悪の終わり方をしないように。例えば初球をパンってあげたりっていうのは僕の野球の中にはない。悪いところ、やってはいけないところから逆算していく方がいい。最高の結果は初球をホームランにすること。あるかもしれないですけど、その確率と、最悪とどっちが高いと言えば最悪の方が高いわけで、そういうことです。そこを考えて僕はやっていますね、1番の時は」

 投手にとって立ち上がりは、まだまだ自分の調子の良し悪しを確認する段階。簡単にアウトを献上することは、中村晃の中では“最悪”であり「僕の野球にはない」とすら言い切る。当然、積極性を売りにする選手への理解も示しつつ「チームとしても先発投手に多く投げさせること。例えばエース級だったら100球くらいで大体代わるので、その球数にいかに早い回で近づけるか、中継ぎの投手を出させるかですし。そういうことを考えながらやっていますね」というのが、中村晃の野球だ。

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

 さらに「前の回の終わり方も関係してくる」とも言う。例えば、守備で失点した後の攻撃で、自分が先頭打者だったとする。簡単に凡退することは、もっと相手に流れを渡してしまう。「そういう先頭とかはやっぱり慎重にいかないといけない。序盤、中盤、終盤によっても違いますし、どういう状況なのかを頭に入れながら打席に入らないといけない。色々と考えて、僕はそうやって野球してきたので、そういうタイプかなと思います」。積極的に行っていいのか、否か。経験、技術、打撃への“偏差値”が、中村晃のような渋い打撃を可能にする。

「誰でもできることですよ。野球を勉強すれば、こうやって打席に立ちたい、打席を進めていきたいっていうのは誰でもできると思います。大谷みたいなバッティングをしなさいっていうのはなかなか難しいかもしれないですけど、野球の流れとかをしっかりと読みながらっていうのは高校生でもできると思います」

 2020年、周東は1番打者として50盗塁を記録してタイトルを獲得し、チームも日本一に輝いた。その時も、2番を打っていたのは中村晃だった。「色々と経験して今に至るので、佑京も。なかなか上手いこと行っていないっていうのもわかっていると思いますし。その中で色々と勉強して、今年はレギュラー取れればいいいんじゃないですか」。周東が持つ素質と可能性、そして真摯な姿勢を知っているからこそ、中村晃も信じている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)