元日に襲われた激痛、触れた“ギータの優しさ” 体重7キロ減…笹川吉康が狙う“逆転開幕1軍”

ソフトバンク・笹川吉康【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・笹川吉康【写真:上杉あずさ】

1月2日に盲腸で手術を受け、柳田の自主トレも不参加に

「焦りしかない」――。まさかのリハビリ組でキャンプインを迎えるとは、思ってもいなかった。勝負の年になると意気込んでいた高卒4年目・笹川吉康外野手はいきなりアクシデントに見舞われ、出遅れを強いられることになった。

 2024年元日のこと。横浜市の実家に帰省中だった笹川は腹部の激痛に襲われた。「痛かったっていうか、途中で盲腸だと確信しました。だから早く病院行かなきゃって、その日に夜間救急に電話して行きました」。病院での検査の結果は予想した通りの「盲腸」。翌日に手術を受け、そこから約1週間の入院生活を送った。入院中は何も食べられず、体重は7キロも減った。

 退院後ほどなくして、筑後のリハビリ組に合流。そこには見るからに痩せ細った笹川の姿があった。「フェニックス・リーグから、今季に向けての身体作りを始めていたんですが……時間も労力も全部パーになりました」。落胆の色は隠せなかった。「今年こそ、と思っていたのに」と、昨秋から入念に準備を重ねてきていたからこそ、ショックは大きかった。

“師匠”の自主トレに参加できなかったことも残念でならなかった。「ギータ2世」と入団時から期待され、柳田悠岐外野手に憧れて常にその背中を追ってきた。昨年に続き、2年連続で“ギータ塾”に参加予定だったが不参加に。自主トレに参加できなくなった旨を柳田に連絡したところ、術前に電話が鳴った。

「え、盲腸?」

 柳田の第一声はこうだった。いつもの口調で激励の言葉をかけられた。「ギーさんも盲腸になったことあるらしくて『そんな時間かからんと思うけん、途中からでも自主トレ来いよ』って笑っていました(笑)」。途中からでもいい――。先輩の優しさが滲んだ。

 ただ、現実はそうはいかなかった。病院に行った段階で症状はかなり悪化していた。「結構、状態が酷かったので、普通の盲腸よりもだいぶ時間がかかりました。虫垂が破裂しちゃって、腹膜炎になっちゃったんです」。腹膜炎は時として命に関わるとも言われる危険な状態。ショッキングな離脱ではあったが、無事に復帰出来たことに安堵した。

 リハビリ組に合流して以降は日々、身体を気遣いながら、体重の管理も行ってきた。減った7キロの体重を一気に戻すと身体への負担も大きくなるため、徐々に体重を増やしていった。焦る気持ちを抑えつつ連日、ウエートトレーニングに熱を込めた。手術から1か月ちょっとで体重は5キロほど戻り、2キロ減っていた骨格筋量も、体力も戻ってきた。

 焦らないように、と言い聞かせてはいても、宮崎への思いを口にすると、複雑な表情を浮べた。昨年の秋季キャンプで小久保裕紀監督にアピールできており、A組の可能性もあったかもしれない。開幕1軍への競争の場となる3月のオープン戦には、最低でも宮崎でキャンプに参加していないと出られないはず――。そんな思いが頭をよぎればよぎるほど、焦りや悔しさも湧いてきた。

 そんな思いが通じたのか、20日に始まる第5クールから宮崎でのB組に合流することが決定。宮崎ではA組は紅白戦、B組は対外試合と、すでに実戦が始まっている。遅れをとっていることに変わりはないが、早く追いつき、結果を残したい一心で、筑後で全体練習が終わった後も精力的にバットを振り続けていた。

 虫垂を切除したため、当初はトレーニングや動きにも制限があった。徐々に思い切り動けるようになり、筋力が戻ってきているのを実感することが喜びだった。先が見えずに不安だった時期を乗り越えた今、より一層気を引き締める。残されたキャンプ期間は短いが、ここからアピールしてみせる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)