今年に賭ける思いがこもった一振りだった。ソフトバンクは宮崎春季キャンプ第4クール最終日の18日、2度目の紅白戦を実施。このキャンプで実戦初アーチを放ち、首脳陣にアピールしてみせたのは海野隆司捕手だった。「今年は特に『見返す』というのを自分の中に置いてやっています」。勝負の5年目に挑む26歳がスタンドを埋め尽くしたファンの大きな拍手を浴びた。
5回の第2打席だった。育成の渡邊佑樹投手のボールを捉えると、打球は左翼ポール際へと飛んだ。ファウルに切れるかと思われた打球は、そのまま切れずに左翼スタンドへと飛び込んだ。「1番は真っ直ぐを一発で弾き返すということを考えてやってきた。去年はそれがまずできていなかったので」。課題としてきた真っ直ぐを一振りで捉えて結果に繋げた。
並々ならぬ覚悟を胸に、2024年を迎えた。東海大時代は世代を代表する捕手として注目され、2019年のドラフト2位で入団。大きな期待を背負って入団したものの、チームには正捕手の甲斐拓也捕手がおり、なかなか出場機会は掴めなかった。2022年に47試合に出場するも、昨季はわずか8試合止まり。ファームでも精彩を欠き、3軍戦に出場することもあった。
昨年8月1日の西武戦(ベルーナドーム)。3点ビハインドの7回から海野は途中出場でマスクを被った。2死満塁のピンチを迎え、有原航平投手が投じた初球を後逸。なんでもない真っ直ぐをキャッチし損ねる痛恨のミス。「1番やっちゃいけないミスだった」。勝敗を決定づけるトドメの4点目を献上。試合後、すぐにファーム降格を言い渡され、そのままシーズンが終わるまで1軍に戻ってくることはなかった。
「あれがあったので、とにかく変なミスをしないことだと思っています。あとは、しっかりピッチャーの力を引き出せれば、と思っています」。あの屈辱のままでは終われない。失意の底で見ていた、自分のいない1軍の試合。「1軍にいられないことがすごく悔しかった。とにかくそれでしたね。1軍でとにかく試合がしたい、と思いました」。自分を変えないといけない。そんな覚悟で秋季キャンプ、そしてオフを過ごしてきた。
秋のキャンプ、そして自主トレにかけて、打撃フォームを変えた。「とにかくバットの角度を変えようとしてきた。ドアスイングというか、バットが遠回りしちゃうっていうのが去年の打ち方。小久保さんからも悪い時はとにかく右手が外から回って来るっていうのもすごく言われているので」。バットを最短距離で出すことに取り組んできたことが、ようやく身につきつつあるという。
「なにかで目立たないと自分みたいなのは終わっていくと思ったので、とにかくインパクトを残したかった。守備だけじゃどうしてもインパクトは残らないので、バッティングで残せるようにというのは考えていました。『今に見とけよ』っていうような気持ちでずっとやっています」
打撃練習でもポール際の打球が切れていかなくなった。去年までのラインドライブしていく打球が格段に減り「いいバットの出し方ができているんだと思います」と手応えがある。同級生の谷川原健太捕手がキャッチャーに専念することも海野の尻に火をつけた。「タニに負けないようにライバル視してやっています」とメラメラと闘志をたぎらせている。
2軍監督だった昨季、海野に対して「5番手捕手」と厳しく現実を突きつけていた小久保裕紀監督も「海野はいい成長をしていますね、秋から。最近では順位が上がってきましたよ」と変化を認める。「とにかく1軍で試合に出たいしかないです」。もともとフレーミングのうまさや守備の能力は高い。甲斐が君臨する正捕手への挑戦状。打撃に磨きをかけた海野がその急先鋒になるかもしれない。