「どっちで勝負したいんや?」 先発への“未練”に葛藤…武田翔太を変えた倉野コーチとの面談

ソフトバンク・武田翔太(左)と倉野信次コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・武田翔太(左)と倉野信次コーチ【写真:竹村岳】

2023年は中継ぎとして27試合に登板…シーズン後に首脳陣から伝えられたこと

 お世話になったコーチと、“サシ”の時間で自分の道が明確になった。「最初は心の整理がつかなかった」――。抱いていた葛藤は自然となくなり、今は1つの方向だけを見つめて調整を続けている。ソフトバンクの武田翔太投手は今シーズン、中継ぎ起用が決定している。「スッキリした」のは、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)との個別面談だった。

 2023年は29試合に登板して1勝2敗、2ホールド、防御率3.91。先発2試合、中継ぎ27試合と、シーズンのほとんどをブルペンで過ごした。「これまで(シーズンを)通して中継ぎをやったことがなかった。『これ持つんかな……』みたいなイメージだった」と体力面を心配していたが「意外と持つとも思いました」と振り返る。状況に応じて、ロングリリーフとして試合を壊さない役割は、自分に新しい可能性を示してくれた。

 継続して、2024年もリリーフで勝負する。小久保裕紀監督となり、倉野コーチも米国からホークスのために帰ってきた。武田が振り返るのは、昨年の秋。PayPayドームの個室で、倉野コーチと“サシ”で面談した。思いを真っ直ぐに受け止めて、自分のことを考えていてくれた。

「話の内容としては『今年どうやった?』っていうところから、来年(2024年)のシーズンに向けて『どっちで勝負したいんや?』っていう。そこに関しては自分自身も『迷っている』と。先発で勝負したい気持ちもあるけど、中継ぎでチームに貢献できるところも捨てがたい。僕的には、小久保さんが『ここを頼む』っていうところでやる方がやりやすいというか、迷いなく行けるということは伝えました。そしたら『中継ぎで考えているんだよね。第2先発として張っていてくれていると計算しやすいから』と」

 通算で66勝の実績もあり、先発としてのキャリアを積んできた。一方で、初めてシーズンのほとんどを中継ぎで過ごしたことで、自分自身に新しい可能性を見つけたことも確かだった。倉野コーチとの面談を終えて「長年、先発でやっていたから最初は心の整理がつかなかった。ベストは先発で回ることやけど、それどころじゃない」。揺れ動く中で、決心させてくれた思いこそ「チームが優勝しないことには、やっている意味がない。小久保さんを男にしたいと思ってやるだけ」という真っ直ぐな気持ちだった。こうして、2024年のリリーフ起用が決まった。

ブルペンで投げ込むソフトバンク・武田翔太【写真:竹村岳】
ブルペンで投げ込むソフトバンク・武田翔太【写真:竹村岳】

 これまでも経験は積んできたものの、中継ぎ起用が決まってオフを過ごしたことは初めてだった。調整としては、大きく変化していないそうで「中継ぎといっても、ロングのところ。先発ができるイメージをしておかないといけない」という。さまざまな場面での起用に応えられるように「準備としては中間という感じ。出力も上げた状態で、ある程度の球数も投げられるようにしておくことですね、重要視しているのは」と現状を自己分析する。

 武田の中継ぎ適性について、倉野コーチは「メンタルとスキル」の2点を挙げていた。昨季のロングリリーフでの経験を踏まえて、武田自身も自分の適性をしっかり認識している。

「僕の長所じゃないですけど、オンオフがはっきりしているところが一番。中継ぎに関しても苦じゃないし、むしろ先発だと抜きどころではっきりと抜いてしまうから、波がある。短いイニングで全力でオンでいく方が、向いてはいるんだと思っています」

 武田が入団した2012年、倉野コーチは3軍投手コーチだった。2021年オフに退団して2年間、米国で指導者としての修行を積んだ。前後を比較しても武田は「最後にこっちにいた時とは、別人」と表現する。柳田悠岐外野手がルーキー時代に、厳しい言葉で現実を突きつけたこともある倉野コーチ。優しさ以外の一面も持ち合わせているが、今の姿を武田は「どうしたら選手がベストに近づくのか、そういうところを考えてくれています」と語る。“選手ファースト”であることがしっかりと伝わっている。

ソフトバンク・武田翔太(左)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・武田翔太(左)【写真:竹村岳】

 キャンプイン以降も2人はコミュニケーションを取っている。会話のほとんどが技術面だそうだ。自主トレではフォークの精度を高められるように取り組んできたが、「今必要なところと考えると、落ちる球というよりは(右打者の)内側に食い込んでいくボール。幅を広げるためには投げないと」と新たにシュート系の球種に可能性を見出している。まだ「練習というより、頭の中にある」という段階だが、ラプソードなどの精密機器を使って、自分の手首の角度などからアプローチしている。まずは開幕1軍に入ること。競争を勝ち抜き、期待に応えたい。

「選手は、悪い言い方だと駒ですから。『ここで行ってくれ』と言われたところで、最大限のパフォーマンスで期待に応えるだけ。それは倉野さんに伝えています」

 ロングリリーフで、決して目立つような役回りではないかもしれない。13年目、4月には31歳になる。気がつけば、後輩もたくさんできた。自分だけの生き方で、お世話になった人たちに恩返しがしたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)

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