日本選手を真似て書き始めた“野球ノート” 通訳も感心する勤勉ぶり…19歳シモンの挑戦

ソフトバンクのマルコ・シモン【写真:上杉あずさ】
ソフトバンクのマルコ・シモン【写真:上杉あずさ】

「日本人の選手がやってるのを見て、真似してやってみた」

 異国の文化を取り入れている。ドミニカ共和国から育成選手としてソフトバンクに入団し、今季が3年目となる19歳のマルコ・シモン外野手は、昨秋から日本人選手を真似て、ある取り組みを始めた。それは“野球ノート”を記すこと。小久保裕紀監督が2軍監督時代に若手に推奨していたノートに書き留めておく習慣に、ドミニカ人のシモンが挑戦している。

 野球ノートとは、練習や試合で起きたことや教わったこと、感じたことなどを書き記すノートのことだ。グラウンドで聞いたこと、感じたことをそのままにしていては忘れてしまうことも多い。野球経験者であれば「野球ノートを書きなさい」と言われたことがある人も多いはず。ホークスでもファームでノートの提出が義務付けられていたこともあった。

 ただ、シモンの母国・ドミニカ共和国には、そうしたノートを書くような習慣はない。なぜ書き始めたのか? シモンは「日本人の選手がそういうことをやっていたっていうのもありますし、しっかり記憶しておくために、同じ失敗を繰り返さないためにという意味でも、書いておくのは大事かなというのもありました。日本人の選手がやってるのを見て、真似してやってみたっていうのが1番です」と経緯を明かす。

「自分に足りないところとか、伸ばせる部分、ミスしてしまったところを主に書いています。自分がどう感じたかとか、しっかり覚えて記憶して、次の日に同じ失敗を繰り返さないように、という意味で書いてきたところが大きいです」。その日の練習や試合で感じたこと、首脳陣からのアドバイスなどをメモする。課題のみならず、良い感覚も書き留める。いつの出来事なのか、日付を書くのも忘れず、王貞治球団会長に直接言われた言葉も大切に記している。

 17歳で母国を離れて来日。壮大なチャレンジをする中で、言語のみならず習慣的なところでも学ぼうとする意欲が強い。「日本にいるから日本人っぽく文化も受け入れてやりたい。適応能力も大事ですよね」。実際に野球ノートを書くようになってから、学んだことや感じたことが頭に残るようになり、翌日以降の練習に入っていけるようになった実感もあるという。

ソフトバンクのマルコ・シモンが書き記す“野球ノート”【写真:上杉あずさ】
ソフトバンクのマルコ・シモンが書き記す“野球ノート”【写真:上杉あずさ】

 ノートを書く外国人選手は滅多にいない。以前、ホークスでプレーしていたジュリスベル・グラシアル外野手がメモをとっていたそうだが、シモンほどきっちりと書いていたわけではないという。金子真輝通訳は「ここまでしっかりノートを書いている外国人選手は初めて」と感心するほどだ。

 シモンは人懐っこくお茶目で、来日してすぐに日本人選手とも仲良くなった。日本語で首脳陣や関係者にもしっかり帽子を取って挨拶する。練習中も「1本目~」や「もういっちょお願いします」といったように、日本人選手と同じように声を出す。技術はもちろん、習慣も含めてこの2年間学んできた。

 また、帰国後はドレッドヘアにしていたが、2日にはサッパリした“丸刈り”に。「ちょっと変えたかったというシンプルな理由ですが、ドレッドが邪魔になったところもあったので(笑)。それに、キャンプに入るという1つの区切りでもあるので」と説明してくれた。

 走攻守、全ての面で大きく成長しているシモン。昨秋のキャンプでは、周東佑京内野手がスピードのある選手として、シモンの名前を挙げていた。「周東さんからは速い以外の部分でも、学ぶところがたくさんあります。実績もすごく積んでいますし、そういう人が近くにいることで自分自身も学ぶことが多くて助かっています。見て、観察して、どういう風にプレーしてるのかを学んで、少しでも近づけるようにという思いです」と貪欲に言う。

 今季は「まずは2軍に定着して、アベレージでしっかり成績を残して、ホームラン10本以上。1軍でプレーできるように支配下登録されることです」と決意を込める。未知の国に単身渡って3年目。母国の家族を喜ばせるためにも、日々を必死に過ごしている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)