千賀滉大からの厳しい言葉「意識が足りない」「全然ダメ」 石川柊太の“宮古島での日々”

ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】

「『もっとやってほしい』っていう気持ちがあって、厳しく接して貰った」

 自分の“今”を見つめ直す時間になった。ソフトバンクの石川柊太投手はこのオフ、沖縄・宮古島で自主トレを行った。例年通り、盟友の千賀滉大投手(メッツ)らと集まり、汗を流した。年齢では石川の方が1つ上。兄と弟のような関係でありながらも、リスペクトする“弟”に教えを乞い、大きな刺激を受けた。

「千賀がアメリカで感じた野球を踏まえて、そういったものを教えて貰ったり、例年以上に、厳しくやらせて頂きました。自分も今年に懸ける思いがある中で、千賀自身も自分に対していろいろ言ってくれる言葉や言い方で、自分に対しての視線というか、アイツ自身からも『もっとやってほしい』っていう気持ちがあって、厳しく接して貰った。自分にとってはいろいろ考えさせられる、ずっと野球のことを考え続ける自主トレでした」

 チームメートだった頃から常に刺激を貰う存在だった。千賀のメジャー移籍の際、海の向こうに自身の活躍を届けるとも誓った。ただ、昨季は4勝止まり。「どちらかというと自分が刺激になるように頑張りたいという中で戦っていましたけど……。メジャーで(千賀が)ああやって活躍した上で感じることを教えて貰う中で、より意識の高さだったり、求めるところの目標に対してのアプローチの仕方の詰めの甘さというか、洗練させていく感じを肌で感じた」。不甲斐なさを感じる1年でもあった。

 石川は今季でプロ11年目となる。千賀と同じく育成での入団だったが、大卒3年目で支配下登録を掴み、1軍で経験を重ねてきた。2020年には育成出身選手として初となる最多勝と最高勝率のタイトルも獲得した。中継ぎでも投げていた2017年から、故障での離脱期間を除けば、ほぼ1軍でマウンドに上がり続けてきた。

 だからこその難しさにも直面してきた。石川は「それなりに1軍で戦わせてもらってきて、自分の癖になってしまっている動きとかが、生半端な気持ちでは抜けない」という。当人がそれを意識して取り組んでいても、客観的に見ればほぼ変化が見られず、千賀からも「意識が足りない」とズバリと指摘されたと言う。

 石川は千賀と自主トレ期間に繰り返してきたやり取りの一端をこう明かす。

「トレーニング1つとっても、自分の動きやすいような動き方や、力の発揮の仕方で動いてしまうっていうのがやっぱりある。『そういうところを取り除くには、すごい努力と根気が必要だから、やっぱり1つ1つ本当に妥協しないで詰めていかないといけないね』みたいな話を(千賀に)ずっとして貰って。そういったところがすごく心に残っていますし、やっぱり意識していかないといけないなって思いました」

 今までだって手を抜いていたわけではない。石川は直面している困難をこう表現する。「今まで積み上げてきた積み木がある中で、例えばジェンガでも、グラグラのジェンガをどう修正していくか。その上でまた積み上げていくっていう作業」。若手がイチから積み上げていくのとはまた違う。これまで積み上げてきたものを残しつつ、新たなものを積み上げていくのは、想像以上にハードな作業だ。

「お化けフォーク」の使い手でもある千賀からはこんなダメ出しも受けた。「フォークは『もうやべえ、やべえ、全然ダメ』みたいなことは言われましたね。『なんでこんなカーブあるのに』みたいな」と石川も苦笑いすら浮かべる。原因の1つは投球フォーム。「フォークをどう投げるかも大事ですけど、フォームありきの部分もある。メジャーのボールは滑るじゃないですか。その中でどう落とすか、日本にいると感じないメカニックの重要性を感じたらしくて」と石川はいう。

 MLBの公式球はNPBのものに比べて縫い目の凹凸が少なく、滑りやすい。握りや投げ方だけでどうにかなるものではなく、根本的なフォームに“落とす”ポイントがある、と千賀は感じたそう。その説明を受けた石川は「ボールに指がしっかりかかっていないと、ボールを叩けていないと抜けてしまう。握りがどうこうっていうのもありますけど、そもそもフォームのリリースのタイミングとかそういったところからもう始まっている」と解き明かす。リリースに至るまでのメカニックの重要性を再認識させられた。

「足の裏から力を貰っていく中で、どこで(力を)ロスしているかっていうところに重点を置いて、動き始めの投げる前の段階での準備っていうところを見つめ直しました。シーズンを通してそれを基盤にした上で、じゃあ、どういうトレーニングするか、どういうフォームで投げるか。それに繋げていく基盤づくりに1番、力を注ぎました。今まではそこらへんがもう1つ詰め切れてなかった」

 石川にとって投球フォームの根幹となる部分。今年33歳になる年齢的な肉体の変化もある。今の自分にフォーカスを当て、アプローチの仕方を改めて考える。さらに深いところまで目を向けて取り組み、より一層、自分と向き合うようにしてきた。

 オフの自主トレを千賀と共にするようになって何年も経つが、その関係性は昔も今も変わらない。

「(千賀は)兄弟みたいな、ブラザーみたいな感じ。でも、彼がメジャーという世界にいて、だいぶ先に行っている。自分も野球を通してそこに付いていけるようにしたいなと思います。クオリティーの部分で、ですね。立場とかじゃなく、質だったり、持ってるものだったり、投球の内容というところで(互いに)『いいね』みたいな話ができるようにしたいなと思います」

 目の前に立ちはだかる壁を越えることの難しさを認識した上で、今まで以上に取り組みへの意識や質を上げたこのオフ。海の向こうで奮闘する“ブラザー”に、今年こそ活躍を届けるシーズンにする。そんな思いを秘めたキャンプが、いよいよ始まる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)