2度目の戦力外通告で消えた笑顔 支配下返り咲きへ「自信あります」…古川侑利の偽らざる本音

ソフトバンク・古川侑利【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・古川侑利【写真:上杉あずさ】

12月に球団から派遣された「ドライブライン」で生まれた変化

 技術も身体も、そして人間としても、さらに大きくなった。駆け抜けた激動のオフは自信に変えた。昨年10月に戦力外通告を受け、育成選手として再契約を結んだソフトバンクの古川侑利投手はキッパリと言う。「自信はあります」。早期の支配下復帰に向けて、勝負の春季キャンプへと準備は万全に整えた。

 2013年に楽天からドラフト4位指名を受けてプロの世界に飛び込んだ古川は、2019年にはトレードで巨人へ移籍。2021年オフに戦力外通告を受けるも、トライアウトを経て育成選手として日本ハムに加入し、2022年オフに初めて行われた現役ドラフトでソフトバンクに移籍した。昨季は自身4球団目のホークスでプレーした。

 佐賀・武雄市出身の古川にとって、地元・九州の球団でプレーする意味は大きかった。喜びを胸に袖を通した新たなユニホーム。移籍1年目は1軍で9試合の登板に終わった。なかなか登板機会に恵まれず、もどかしい時間が長かったが、2軍でも一切妥協なく取り組んでいた。だが、オフに待っていたのは非情な通告。球団から、わずか1年で戦力外通告を受けた。

 ホークスへの移籍を喜んでいたからこそ、普段は前向きな古川から笑顔が消える時間もあった。「正直、モチベーションとしては難しい部分もありました」。オファーを受けた育成選手での再契約に葛藤はあったが、野球への情熱は一切消えなかった。海外からの誘いなどもあったが、ソフトバンクで今年もプレーを続けることを決めた。

 このオフ、地元の武雄市には、黙々と自主トレに励む古川の姿があった。「すぐに支配下に戻るつもりで、意気込んで毎日追い込んでました」。こう語る表情には強い決意が滲む。「飛ばしっぱなしです。だから、ちょっと飛ばしすぎだなって思う時はうまくリフレッシュして、ケアをしっかりやったりとかしています。そのバランスがやっぱり大事。そういうところも含めて、すごく充実した自主トレ期間でした」。心は燃え、頭は冷静に1月を走り抜けた。

 ホークスの支配下登録選手は現時点で62人となっており、8枠空いている。FAで加入した山川穂高内野手の人的補償として西武に移籍したのは中継ぎの甲斐野央投手だった。「僕としてはチャンスが増える。人的補償のところはピッチャーに行ってくれ、と。それがもう本音ですよね。自分はそういう立場にいるんで」。3度も移籍を経験している身で、競争社会の厳しさは誰よりも理解しているつもり。這い上がらなければならない育成選手という立場だからこその本心だ。

 古川には即支配下に返り咲いた経験がある。巨人を戦力外になり、日本ハムに育成で入団した2022年には、春季キャンプとオープン戦でアピールし、開幕前に支配下登録を掴み取った。そして、その年にはキャリアハイの1軍成績を残した。

「その時ももう本当に、絶対にすぐに支配下に戻って活躍してやるっていう気持ちでした。今もその時と変わらずやれている。モチベーションの部分とか、最初は難しい部分もありましたけど、そこもなんとか自分でいろんなこと考えながら、自分のモチベーション上げてやることができたので、よかったですね」

 当時とは経緯は違うにせよ「(僕の中では)一緒だとは思いますね。1回クビになって、また育成で。ただ、それが同じチームっていうだけなので、やることは変わらないです。もう1回、見返してやろうじゃないですけど、そんな気持ち。“なにくそ根性”です」と、古川の鼻息は荒い。

 戦力外となり、育成再契約となったにも関わらず、12月には球団から米シアトルのトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」に派遣されたことも大きかった。メカニック的な部分でも学びはあったが、古川はメジャーリーガーをはじめとする外国人選手に混じってトレーニングした際の姿勢に衝撃を受けたという。

「そもそも身体がすごいな、と。アップをするだけでも全然違っていて、肌で感じる本気度というか、目の色が違ったんです。そこでもすごくモチベーションになりました。(自分は)全然まだまだヌルいなって。もっとやれるぞっていうふうに思いましたね。だから、行かせてもらったことに本当に感謝しています」

 古川自身、元々かなりストイックな選手だが、外国人選手の貪欲な姿が非常に心に響いた。その刺激を胸に帰国すると、熱い気持ちのまま自主トレに励んだ。「シンプルに野球っていうスポーツで高みを目指す」というブレることのない大きな目標に突き進んだ。「楽しみました。苦しいけど、自ら楽しいと言い聞かせて、バグらせて(笑)」。どんなキツい練習でも、常に自身を鼓舞して乗り越えてきた。

 辛く厳しい自主トレを乗り越えたからこそ、支配下復帰への自信を「ありますね、かなり」とみなぎらせている。「本当にキャッチボールから球が変わってきているなっていうのは感じているんで、もう去年とは本当に全然違います。対バッターに投げた時、どんな変化が出るのか楽しみです」。一冬を越えて自身に起こっている変化を実感しており、それが自信につながっている。

 プロ10年間で計4球団を渡り歩いてきた。トレード、トライアウト、現役ドラフト、そして2度の戦力外通告を経て、11年目の今季は2度目の育成選手として迎える。逆境もたくさんあったがすべて乗り越えてきた。

「もうなんか、感覚おかしくなっていますよね。何が起きてもどうもないというか。どうもなくはないんですけど(笑)。人間的にも成長できていますし、いろんな経験をすることによって、人としての成長はすごくできているなと感じます。野球の方で言えば、いろんな選手と関われるので、それを見たり聞いたりして、自分もレベルアップできますし、野球でも人間的にもすごく成長できているなって感じてます」

 プロ野球界の荒波の中で心身共に大きくなった古川なら、立ちはだかる今回の壁だって乗り越えられるはずだ。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)