帰省も練習場所がない…1回200円のバッセン 西尾歩真の1年目、緊張して“激やせ”した日々

ソフトバンク・西尾歩真【写真:竹村岳】
ソフトバンク・西尾歩真【写真:竹村岳】

育成の内野手、西尾歩真を単独取材…「ガリガリになりました」というある時期

 育成にしか見えない景色は、何度も経験した。「力がなさすぎました」と実力不足を真っ直ぐに受け止めている。鷹フルは育成の西尾歩真内野手を単独取材した。1年目の2023年、“激やせ”してしまった時期があった。「悔しかった」という明確な感情、育成ならではの環境を打ち明けた。

 2000年6月20日生まれ。三重県松坂市で生まれ育った。中学時代は津ボーイズに所属し、岐阜の中京学院大中京高に進学。中京学院大ではリーグ戦で打率4割超えを3度記録するなど、抜群のミートセンスを培ってきた。2022年育成ドラフト13位で指名を受け、プロの世界へ。167センチと小柄だが、「みんな大きいので、もっと気合が入ったと言いますか、負けたくないというのはあります」と反骨精神に変えてきた。

 1年目のた2023年はウエスタン・リーグで70試合に出場。主に二遊間を守りながら打率.228、14打点、出塁率.316を記録した。全てが初めてだった中で「力がなさすぎました」と受け止めている。痛感させられたのは、アマチュア時代とは全く違う1年間を戦わなければならない体力面の厳しさだった。それが夏場の“激やせ”にもつながってしまった。

 タマホーム筑後はナイター設備があるものの、ビジターだとウエスタン・リーグはデーゲームがほとんど。灼熱の太陽が照りつける中で練習すると、もう食事は喉を通らなかった。「僕は試合前に緊張するタイプですし、食べすぎても動けない。自分はそんなに減らないタイプなんですけど、全然食べられなくてガリガリになりました」。昼食はケータリングだが、積極的に手に取ることができない。特にキツかったのが米をはじめとした炭水化物で、体重はあっという間に3キロ減って65キロとなった。

 167センチの小兵。落ち幅こそ3キロだったものの「自分のこの体型で3キロは結構大きかったです。キレがなくなったというか、やせて軽くなったのに、体がめちゃくちゃ重たいみたいな感じでした。バットも重く感じましたし」と、体重の変化はすぐにプレーに表れた。秋以降は食欲を取り戻し、1日5食。サプリメントの力も借りて今は人生最大という70キロにまで増量。「1年目でしたし、練習をしないと上手くならない。いっぱい練習してヘタヘタな状態でご飯だったので」と、全てが貴重な経験となった。

 昨年末の契約更改では和田毅投手、牧原大成内野手らが育成選手に対して苦言を呈した。和田は「ユニホームを変えてもいい」といい、育成入団から這い上がった牧原大は「何も感じられない人間は終わっていくだけ」とキッパリ言った。全ての育成選手を一概に括ることはできなくとも、昨年に支配下登録を掴んだのは木村光投手だけ。結果にも表れていた育成の現状を含め、先輩たちからの苦言を西尾はどう受け止めたのか。

「自分もプロ野球選手だと思っていないです。恵まれている部分も多いですけど、待遇とかも違うので。支配下になりたい気持ちは強いですけど、支配下になってプロ野球選手だと言われると思う。そこに関しては『その通りだな』って感じです」

 和田が唯一、名前を挙げた仲田慶介外野手は「サインを書くのも恥ずかしい」とすら言った。西尾も「そうですね、恥ずかしいです」と同調しつつ「でもファンの方、特に子どもたちからするとわからないとも思う」というところに西尾の人柄が表れている。ユニホームを着た1人の野球選手として、応援が力に変わることは知っている。「できるだけ書こうとは思います。自分が支配下になった時、そういう人たちも喜んでくれると思う」。“下積み”の今だからこそ応えたい人がいる。それもまた育成にしか見えない景色だった。

ソフトバンク・西尾歩真(右)と仲田慶介【写真:竹村岳】
ソフトバンク・西尾歩真(右)と仲田慶介【写真:竹村岳】

 育成と支配下は、明確な線引きが存在する。西尾は昨季、2軍戦に出場しながらも「自分が実力がまだまだなんですけど、やっぱり支配下の人が2軍でも優先される。野球をやっている以上初回から、スタメンで出たいです」と振り返る。2軍の公式戦に出場できる育成選手は1試合で5人まで。2桁背番号の選手に羨望を抱き、ベンチから戦況を見守っていた。「実力がないことが理由だと思うんですけど、そこは悔しかったです」と、胸に刻まれた感情だった。

 年末年始には三重県に帰省した。7月ぶりの地元を味わう中で、育成ならではの苦労も。時期が時期だけに、なかなか練習施設も開いていない。持って帰っていた木製バットを手に、バッティングセンターに通った。軟式球だと打感が違いすぎて練習にならないだけに「準硬式を打てるところがあるので、自分でそこまで行って。練習する場所はなかなかなかったです」。1回200円で20球前後。打ち足りない分は素振りをするなどして、バットを手にする時間は減らさなかった。ウエートトレーニングも1回400円、市営の体育館に出向きフィジカル面でもなんとか量と時間を確保してきた。

 2年目となる2024年。現状、支配下は62人と空いている枠は昨季よりも多い。「まずは支配下登録されるところを見せたいです」と狭き門をくぐり抜けることが直近で最大の目標だ。味わった悔しさは、力に変えていくしかない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)

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