和田毅に“救われた”後輩…冷静な口調で「抜けた方がいい」 怪我を未然に防ぐ眼力

ソフトバンク・和田毅(右)とリチャード【写真:竹村岳】
ソフトバンク・和田毅(右)とリチャード【写真:竹村岳】

2年連続参加となった板東湧梧「今年は元気にやれている」と手応え

 ベテランの眼力が発揮された出来事だった。怪我まで未然に防いでみせたのだから、さすがの一言だ。ソフトバンクの和田毅投手が15日、長崎市内で自主トレを公開した。他球団も含めて16人の選手が集まった大所帯。ハードな食事やランニングだけではなく、“和田の自主トレといえば”体幹トレーニングが知れ渡っている。今回トレーニングに初参加し、救われたのがリチャード内野手だ。

 14日は身体のストレッチや筋肉、バランスを強化する「ピラティス」を行った。この日の朝も、体を温めた後は時間をかけて体幹トレーニングを行っていた。和田は、現在の練習量はピークに比べれば半分近くになっているというが、「今は必要と思っている体幹トレーニングを若い頃はしていなかった。キツさという意味ではそんなに変わらない」と胸を張る。脳に刺激を入れるトレーニング「ライフキネティック」も取り入れて、さらなる進化を図ろうとしている。

 投手と野手の垣根を越えて、リチャードは初参加となった。しっかりと打撃練習も重ねており、ハードな和田のメニューについていこうと必死な日々だ。「ちょっと成長したねって言われるようになってきているので、もっと頑張ろうと思います」。そんな和田に救われたのは、自主トレが始まってすぐの出来事だった。

「PP(ポール間ダッシュ)を20本、走っていた時なんですけど、どうしてもキツくなってくると腰が(反るように)上がってしまって、それで痛かったんです。絶対に走り切ってやると思っていて、頑張って走っていたんです。でも16本目くらいで『リッチー、その走り方だと腰が危ないから、抜けた方がいいと思うよ』って言われました。『やる気ないんだったら……』とか“そっち系”じゃなくて、その時はストップでした」

 体幹、腹部に力がしっかりと入っていれば、おのずと姿勢が良くなる。3度目の参加となった阪神の大竹耕太郎投手は、ピラティスも含めて、和田との自主トレで「身長が伸びた」という経験も明かしていた。初参加のリチャードは、和田のメニューを始めてまだ日が浅い。ポール間を走っていた時も「僕も『あと4本いけるかな……』って、本当にキツくて、それで声をかけられました。16本目でメニューを抜けたことに「複雑でした」というが、故障のリスクを鑑みてストップさせた和田の眼力に感謝しかなかった。叱るのではなく、冷静な口調だったのも和田らしさだ。

ソフトバンク・和田毅(右)と板東湧梧【写真:竹村岳】
ソフトバンク・和田毅(右)と板東湧梧【写真:竹村岳】

 2度目の参加となった板東湧梧投手も手応えを感じている。和田が言う体幹の理論や必要性については「理解ができていても、体現ができていない」と前進する途中だ。その上で「ちょっとずつタイミングは掴めていて、和田さんにも『見た目だけでいうと悪くない』と言われていますけど、自分の感覚がまだ出ていなくて、もうちょっとです」と、和田からも成長を認められるようになってきた。「毎日ヘロヘロです」というハードな日々だが、その効果は確実に表れている。

「それ(腰)が、和田さんにも反らなくなったねと言われました。元々僕は体質的にも反っていると思うんですけど、それでも『去年に比べていい』と言ってもらいます。今年は僕、ランニングでリタイアしていないんですよ。去年はPPが無理だったんですよ、腰が痛くて。今年はランニングで腰が痛いってことは一切ないので、手応えを感じています」

 息が上がれば視線も上向き、体幹が“抜けた”状態になる。板東は昨春のキャンプ中、腰に違和感を訴えて別メニュー調整になった時期もあった。和田の理論を当てはめれば、当時の板東も体幹という意味ではまだ弱かったのかもしれない。本人も「一発目で腰をやっちゃいましたし、自主トレの時もウエートをしていて腰をピッてやったんです。今年は元気にやれているので、手応えありです」と、進化を感じ取っている。選手それぞれの変化を一瞬で見抜いているのだから、和田の眼力はさすがの一言だ。

 総勢16人もの大所帯。1人1人に目を光らせていては、一番肝心な和田の練習量が確保できないのでは、と考えてしまう。そこにも和田は「大丈夫」と言う。「最初は教えながらになるかもしれないですけど、慣れてくればしっかりできている。やり方とかフォームは、何年か(自主トレに)来ている選手が指摘をしてくれる。逆に、いい姿というか、僕が言わなくても指摘しあえる環境にしたいと思っていましたから」。自分の考えを吸い込んだ後輩が、さらに後輩に教えていく。だからチーム和田の自主トレは、どんどんと大きくなっていくのだ。

 和田自身、左脇腹付近と左ふくらはぎに張りを訴えて、ペースを落としている時期もあった。「年末にランニングをして張りが出たりして、今ようやく良くなってきた」と少しずつ、確実に上昇気流を描いている。小久保裕紀新監督からは開幕ローテーション入りを明言されているだけに、しっかりと時間を使いながら2024年に向かっていくつもりだ。和田本人はもちろん、たくさんの後輩たちが各地で活躍する。そんなシーズンになってほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)