「打席で変顔とかすんなよ」甲斐野央と交わした会話 寝ている間に事態急変…栗原陵矢が人的補償を知ったLINE

ソフトバンク・栗原陵矢(右)と甲斐野央【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・栗原陵矢(右)と甲斐野央【写真:藤浦一都】

受話器の向こう側で栗原はポツリとつぶやく「寂しくなりますね…」

 ワケが分からなかった。現実を受け入れられず、しばし言葉を失った。

「寂しくなりますね……」

 受話器の向こう側でソフトバンクの栗原陵矢外野手はポツリと呟いた。太平洋を隔てたアメリカの地で衝撃のニュースを知った。親友でもある甲斐野央投手の人的補償による西武への移籍――。寝ている間に起こっていた“急転直下”の事態に混乱した。

 現在、井上朋也内野手とアメリカで自主トレに励んでいる栗原。甲斐野の西武移籍について「鷹フル」の単独取材に応じて心中を吐露した。盟友の西武移籍が発表されたのは11日の17時半。アメリカは真夜中で栗原も翌日のトレーニングに備えて眠りについていた。「朝起きたらめっちゃLINEが来ていました」。スマホには大量のメッセージが届いていた。

「クリは今、夜中だから寝てるやろな。起きたらめっちゃビックリするやろな」

 栗原と甲斐野、笠谷俊介投手、巨人に移籍した泉圭輔投手の同級生4人のLINEグループではこんなメッセージから、やり取りが始まっていた。「なんのことだろう……」。疑問に感じながら、3人が送り合っていたメッセージを読み進め、ようやく甲斐野が西武に移籍することを理解した。

「もう色々なことが起こって、ワケが分からなさすぎて『どういうこと?』ってなりました」

 現地10日の夜のこと。自主トレを終えた栗原は、和田毅投手が人的補償として西武に指名される、との一部報道を目にした。「ニュースで見て『マジ!?』ってなりました。それなのに、起きたら全然違うことになっていて……」。一晩で事態は急転していた。人的補償で西武に移籍するのは、同級生で親友の甲斐野になっていた。

 LINEを読み、事態を理解した栗原はすぐに甲斐野に電話をかけた。「アイツが(移籍を)想定していたかどうかわからないですけど、『何か実際に移籍ってなったらめっちゃ寂しいわ……』って言ってて。僕もめちゃくちゃ寂しかったので………」。5年間、公私共に仲が良く、家族ぐるみでの付き合いもある。寂しくないわけがない。ただ、2人ともお互いを気遣おうとしたのだろう。そこから先は普段通りの2人の会話だった。

「無理して普段通りしようとしていたのかはわからないですけど、『お前に1個だけ言っておくけど、マジで絶対に打つなよ』みたいな感じで言っていましたね。『お前、絶対に打席で変顔とかしてふざけんなよ』とか。僕も『ランナーで出たら、めっちゃ笑かしてやるわ』って言いましたし」。まさに甲斐野と栗原の“名コンビ”らしい応酬。お互い努めて前向きに振る舞った。

 実は栗原と甲斐野、紅白戦で1度だけ対戦したことがある。「2球目までめっちゃ本気で投げてきたのに、2ボールになって、ストライク投げるためにめっちゃ置きに来て、ヒューッて投げてきたんですよ。僕はそれを先っぽで打っちゃった」。抜いた真っ直ぐにタイミングが外れ、結果、栗原は投ゴロに凡退。軍配は甲斐野に上がった。その後の展開はおおかた想像がつく通り。甲斐野が栗原を猛烈に煽ってきたという。

「『お前だけは抑えたかったわ』とかめちゃくちゃ言われたんですよ。だから、絶対に1回は打ったろって思っています。きっと真っ直ぐ勝負で来てくれるだろうと思いますし、今度は抜いた真っ直ぐじゃなく、全力の160キロを待っておきます。そこでフォークとか投げたら、アイツにめちゃくちゃ言ってやりますわ」

 今季から栗原と甲斐野は違うユニホームを来て対峙するようになる。人的補償での移籍には寂しさも悲しさも付きまとうが、それでも選手たちはプレーしなければならない。優勝を争うような“至高の戦い”の中で甲斐野と栗原が対戦する。2人にとってそんな輝かしい瞬間がやってくる未来を願いたい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)