キャッチボールが「一番難しい」 18歳でたどり着く“達観”…前田悠伍が秘める恩師の言葉

新人合同自主トレに参加したソフトバンク・前田悠伍【写真:藤浦一都】
新人合同自主トレに参加したソフトバンク・前田悠伍【写真:藤浦一都】

新人合同自主トレがスタート…キャッチボールは「6割、7割くらいでした」

 18歳にして、基本の大切さも、奥深さも理解していた。ソフトバンクは9日、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で新人合同自主トレをスタートさせた。大阪桐蔭高からドラフト1位で入団した前田悠伍投手はダッシュなど、3時間のメニューを消化した。練習後に取材に応じ、語ったのは「キャッチボールが一番難しい」ということ。アマチュア時代から実績を積んできた左腕らしい考えを、丁寧に口にした。

 滋賀県長浜市出身で、中学時代から日の丸のユニホームにも袖を通した。大阪桐蔭高に進学すると、2年春の甲子園では優勝を経験。秋の明治神宮大会でも連覇を達成するなど、数々の実績を積み上げてきた。昨年のドラフト会議でも3球団が競合した末、ホークスが交渉権を獲得。11月、12月とトレーニングを重ねて、ようやくプロとしての第一歩を踏み出している。

 この日のキャッチボールは「6割、7割くらいでした。体重移動と、相手に向かってのベクトルを意識していました」と、出力よりも形を心がけたような時間だった。投手にとって、基本中の基本となる練習。その練度はきっと、マウンド上のパフォーマンスにも直結している。18歳にしてプロとしてふさわしい意識と志を抱く左腕は、なぜキャッチボールを「一番難しい」と表現するのか。

「少し暖かくなっていけば傾斜でも投げたいんですけど、キャッチボールが一番難しいと思っています。平地の中でどれだけ体重移動とかをやっていけるか。基本、自分はキャッチボールの中で確認をしています。平地で体重移動をしないといけないっていうのは自分のクセも出ますし、そのクセを直すこともキャッチボールではできますから。簡単そうで難しいというか、そんなイメージです」

 きっかけは、母校の大阪桐蔭・西谷浩一監督からの言葉だった。「西谷先生にキャッチボールの重要性というか『ただの肩慣らしじゃなくて、技術練習』『いい選手はキャッチボールを見たらすぐにわかる』と言われたので。そこから意識するようになりました」。前田自身がまだ下級生だった時を振り返っても「1個上の川原さん(嗣貴投手)も、3年生になる段階で急にキャッチボールが良くなったと自分も感じていました。そこからどんどん球速も上がって、投手としてのレベルも上がられていた」と、先輩の背中も見つめてきた。

 前田なりに思う“いいキャッチボールをする選手”とは。「パッと見では変わらないかもしれないですけど」とした上で「意識の仕方というか。ここを意識しているキャッチボールだなっていう。意識をしているのか、ただ投げているキャッチボールでは違うと思うので、そういう意識の違いかと思います」。具体的なポイントまではわからずとも、何かを変えようとしていることが、見ているだけでも伝わってくる。そんな選手の積み重ねる1球1球が、大事な一戦に生きてくることも前田は知っている。

 筑後で自主トレを重ねる東浜巨投手や、有原航平投手らとはすでに挨拶をしたという。名前を伝えた程度だったというが、先輩2人のキャッチボールは「(自分が)練習しながらではありますけど、見ていました。ずっとは見ていなかったです」と、横目で気にしながら存在を感じ取っていた。「自分が高校2年生くらいになった時から、周りに聞くことも大事だと思ったので、そこからいろんな先輩にも聞くようになりました」と、プロの世界でも礼節を忘れず、先輩方から丁寧に学びを得ていきたい。

 高校時代、主に練習は午後9時までだったという。「自由な時間をどう使うかで、差が生まれてくる」という意識も、西谷監督から教わったものだった。「西谷先生から、一緒の練習量をやっているので、部屋に帰ってストレッチだったり、寮の雨天練習場で練習することで他の選手との差が生まれると言われていました」と振り返る。学校や寮内での生活もあり、個人の時間を取ることは簡単ではなかったが、これからはプロとして自主性が問われてくる。18歳とは思えないほど姿勢も考えも成熟した前田なら、どんどんと伸び代を見せてくれるはずだ。

 キャッチボールしてみたい先輩に真っ先に挙げたのは、和田毅投手だった。「ボールのキレもすごいですし、力感のないフォームで150キロ近く投げているので。どんな意識なのか、見て感じたいです。何が違うのかを肌で感じられたら」。3時間の練習を終えて、20分ほどの取材に対応。寮内に戻る前には、1人1人のスタッフに丁寧に頭を下げて、練習を締め括っていた。高いプロ意識に、謙虚な姿勢が何度も見えた初日だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)