大ベテラン和田の苦言「育成の選手はプロ野球選手ではない」
大先輩の言葉を当の若鷹はどう思うのか――。
ソフトバンクの和田毅投手は年末の契約更改交渉後の会見で、若い育成選手たちへの苦言を呈した。「育成の選手はプロ野球選手ではないと自分は思っている」。育成選手の取り組む姿勢などに物足りなさを感じるからこその叱咤。2003年からプロの世界で腕を振り、日米通算163勝を挙げてきた和田だからこそ重みのある発言だった。
厳しい言葉を発したが、そんな中で唯一、名前を挙げた育成選手がいた。「本当に這い上がりたいんだな、1軍でプレーしたいんだなって思うのは、仲田選手くらいじゃないですかね。僕の目に入るくらいなので、見落としているかもしれないですけど」。2021年の育成ドラフト14巡目、その年に指名された128人中128番目で名前を呼ばれた仲田慶介外野手だった。
福岡大時代から“練習の虫”として知られていたが、プロ入り後もひたむきに練習する姿が印象的な選手だ。支配下登録こそまだ叶っていないが、成長は著しく、小久保裕紀監督も2軍監督時代から目をかけてきた存在である。「非常に今時の子には珍しい泥臭さもあって、ガツガツしています。どっちかというと動き過ぎを止めなアカンぐらいのタイプの子なんですね。非常に面白い存在だと思います」と語っていたほどだ。
オフになっても仲田の練習量は落ちるどころか、むしろ増しているほど。ファーム本拠地「HAWKS ベースボールパーク筑後」の施設が使えない年末年始も母校のグラウンドで汗を流した。午前中から日が暮れるまで守備練習、打撃練習、走塁練習などに取り組み、それ以外の時間でトレーニングやケアも行う。「(12月)31日と1日はおばあちゃんの家に行かないといけないので練習出来ないですけど……」と、2日間の休養でさえもウズウズしてしまうほどだ。
そんな仲田は、和田の発言をどう受け止めたのか。当然、このニュースは仲田の目にも入っていた。「自分も育成なので……。そんな言える立場ではないですが……」とした上で「自分も育成はプロ野球選手だとは思っていないです。練習生だと思っています」と語る。
ドラフトで指名され、念願のプロの世界に入ることが出来た時には涙を流して喜んだ仲田だが、“プロ野球選手になった”と満足することはなかった。毎日毎日、支配下登録を強く意識して練習に励んだ。1年目から2軍で頭角を現し、結果も残してきたが、支配下登録を勝ち取っていない今、自分のことを“プロ野球選手”だとは思っていない。
「ファンの方にサイン書かせてもらっていますが、本当は書きたくないんです。3桁のサインを書くのが恥ずかしいので……」。育成選手の立場で、ファンにサインを書くことにも引け目を感じているのだという。ホークスのユニホームを着ている以上、応援してくれるファンにファンサービスをする機会は必ずある。丁寧に対応するが、本音を言えば、背番号が2桁になって、胸を張ってサインしたい。
和田の発言を聞く前から、周囲を見て思うことはあった。「確かに僕も思います、もったいないよなって」。筑後の練習施設はナイター設備もあり、どれだけでも練習できる充実した環境がある。にも関わらず、寝る間も惜しんで練習に汗を流している選手はあまり見かけない。12月中に行われていた育成練習は午前中で全体練習が終了。仲田の場合はそこからが本番と言わんばかりに、深夜まで1人で居残り練習に励んできたが、全体練習だけで練習を終える選手もいた。
「自分は怪我が多かったので、怪我しないようにしないといけないから(練習量を)抑えているところも少しあるんですが……」。チームトップクラスといって良いほどの練習量を誇るが、それでも本人は物足りないのだという。「(やっている量で)負けないなとは思う」と言うものの、仲田は周りのことはあまり気にしていない。上手くなるために必死だから、周りを気にしている暇もない。
和田はこんなことも語っていた。「ホークスというチーム名を背負ってプレーをできるのは本当に贅沢なこと。それを認識して日々を過ごしているのか、疑問に思うことはたくさんあります。ユニホームを変えてもいいんじゃないか。せめて2軍の試合に出たくらいからホークスのユニホームを着られるくらい。それくらいから神格化してもいいと個人的に思います」。育成選手のハングリー精神を養う1つの考えだった。
仲田もそれに同調する。「和田さんの言うように、ユニホーム変えるっていうのもいいんじゃないですかね。自分も別に育成はプロ野球選手だと思ってないので」。常に1軍で活躍することにフォーカスして、仲田は日々を過ごしている。その取り組みを誰しもが認めるからこそ、和田の耳にも入ることになったのだろう。
ただ、仲田は「やらなければならない」以上に「野球がしたい」「野球が大好き」という気持ちに突き動かされている根っからの野球小僧である。「好きこそものの上手なれ」を地で行く人間こそが仲田慶介なのだ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)