山川穂高なりの「戒め」 一生背負う“十字架”…ファンに届けられなかった“最後の言葉”

入団会見を行ったソフトバンク・山川穂高【写真:藤浦一都】
入団会見を行ったソフトバンク・山川穂高【写真:藤浦一都】

会見の第一声は謝罪「決断に時間がかかってしまい申し訳なく思っています」

 一番の決め手、そして最後の最後まで自分を迷わせた思いを語った。ソフトバンクは19日、山川穂高内野手の入団会見をPayPayドームで行った。背番号は25番、三笠杉彦GMの同席のもと、初めてホークスのユニホームに袖を通した。決断に1か月以上の時間を要し、心境はどんな移ろいを描いたのか。一番の決め手として語った思いに滲んだのは、プロ野球選手としての本能だ。

 5月に強制性交等の疑いで書類送検され、8月には不起訴処分となった。西武からは無期限での出場停止となり、今季は17試合出場に終わり本塁打はゼロ。11月14日に国内FA権の行使を発表してから、正式発表まで1か月以上の時間を要した。会見の冒頭で山川も「ここまで決断に時間がかかってしまい申し訳なく思っています。一連の私の不祥事でライオンズ、ライオンズファン、多くの方々にご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げる。

 考える時間は、たくさんあった。悩みに悩んだ。山川がホークス移籍を決断したのは、プロ野球選手としての本能であり、覚悟だった。

「三笠GMに優勝したい、と。『戦力になってください』と強く言っていただけたことが決断理由です。自分もその言葉を聞いて、覚悟を持って決断しました」

 球団としては第3者委員会のような組織は作らず、独自の調査チームを立ち上げて山川本人、山川の代理人をはじめ「多方面の調査を行った」と明かす。山川が起こした不祥事についても「不起訴処分になったことにしっかりとした調査。あとは再起をかけて真摯に打ち込みたいと思っていること、ご家族のサポートも得られている。山川選手の能力の評価を総合的に判断をして、反対の声があるもののプレーする機会をホークスとして与えて、本人も努力をしますし我々もサポートする努力をして素晴らしいプレーを見せること」と説明する。

 三笠GMも「その認識で大丈夫」と話すようにホークスに移籍することで、出場停止処分も解かれることになる。来年11月には33歳となるシーズン。プロ野球選手として、戦力として評価してもらえたことが何よりも嬉しかった。一方で、最後の最後まで山川を悩ませたのは、西武ファンの存在だった。

「やっぱりライオンズさん、10年間お世話になっているチームですし、私が不祥事を起こしていますので、その辺も全部考えた上で最終的には判断したんですけど、そこが一番の要因となりました」

 1か月以上、公の場で言葉を発する機会がなかった。11月26日の「LIONS THANKS FESTA 2023」にも不参加。今はもう正式にホークスの選手となり、最後まで西武ファンのためだけに自分の言葉で思いを表現することができなかった。「叱咤激励、いろんなご意見、『頑張って』と言ってくれる方もいたので。最後の最後まで、その人たちの声援にどうにか応えたい部分と、自分がこれを戒めとしてやり続けること。そして三笠GMに『それでも必要』だと強く言ってもらったので、そこでかなり悩みました」と、苦しかった胸中を明かす。

「去就が決まっていない状態でしたのでなかなか挨拶ができずに悔やんでいますし、本当は自分の口から皆さんの前で挨拶がしたかったんですが、日程的なこと、ここまで時間がかかってしまったこともありますので。選手の方にはこれから連絡できる方にはしたいなと思っていますが、ファンの方に挨拶をするのはここで、先ほど述べた言葉で挨拶という形になってしまいます。そこは本当に申し訳ないです」

 FA権を行使するのか、しないのか。移籍するのか、残留するのか。さまざまな選択肢があった中で、支えてくれたのが家族だった。1度は迷惑をかけ、裏切ってしまった妻は、移籍を決断するまでどのようなスタンスで見守ってくれたのか。

「妻には正直に話すので、全ての話ができますので、全ての話をしました。全てを話して『どう思う?』と聞いたら『任せる』と言っていただけたので。本当に野球人生は限られていますし、1度は引退も考えました。引退を考える、引退するかどうかの会議も僕の母親と妻としたので。それで『もう少し、頑張ってみよう』と話をして、乗り越えてきてくれたので。妻は『好きにして』と言ってくれました」

「妻の『任せる』という言葉で、僕がどういう決断をしてもついてきてくれるんだという判断になったので、先ほども言った通り、全てを踏まえてホークスさんにお世話になることを決断しました」

 引退も頭をよぎった。ユニホームを脱ぐことも本気で考えた。イバラの道だと、向かい風だとわかっていても移籍を決断したのは、山川の覚悟に他ならない。自分が示すことができる全てで、生き様を見せる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)