ベストナインも含め複数のタイトルを獲得「今年がある程度土台になれば」
来年も上手くいくだなんて、微塵も思っていない。プロとしての厳しさを知っているからだ。ソフトバンクの近藤健介外野手が15日、PayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。今季は日本ハム時代の最終年の年俸が適用されていたが、来季は5億5000万円(金額は推定)でサインした。いくつものタイトルを獲得する働きを見せたものの、近藤は「正直、できすぎ」と偽りのない胸中を明かす。
日本ハムから海外FA権を行使して、今季からホークスの一員となった。3月にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表「侍ジャパン」の一員として出場。大谷翔平投手(ドジャース)とともに、世界一に貢献した。シーズンでも打率.303、26本塁打、87打点、出塁率.431と文句のつけようがない成績。本塁打王、打点王、最高出塁率、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を総なめした。
FA移籍1年目で多くのキャリアハイを残し、まさに期待以上の結果を叩き出した。小久保裕紀新監督も「レギュラーは柳田と近藤」と早くも明言し、近藤もそれに応えようとオフシーズンを過ごしている。一方で、今季の成績を振り返りながら来季に目を向けると「正直、できすぎている」とも言う。熱い志を抱く、近藤らしい思いだった。
「最初はあまり上手くいかなかった。後半、交流戦くらいからですかね。それくらいからは思っている打撃ができて、最後が終わって数字を見たら、できすぎだと思います」
3月&4月は打率.259、5月は同.235と苦しんでいた。セ・リーグとの交流戦では優秀選手賞に選出されるほどの活躍を見せて息を吹き返すと、最後は本塁打と打点で頂点に立った。1年間の中で波を経験したからこそ「今年がある程度の土台になってくれたらと思いますけど、自分の課題の長打率は常にレベルアップしたい」と足元を見つめている。2024年も今年ほど順調に上昇気流を描くつもりではいるが、そんなに甘くないことも誰よりも知っている。
「(後半戦の打撃は)自分の中で強いスイングをする中でボールを捉える感覚はある程度、出てきた。でも強く振りにいっている分、三振も多いので、そこのズレは感じながら、仕方ないと思いながらやっていた1年でした。それを言うと、まだまだ思い描いているところではないかなと思います」
長打と確率を追い求めた中で、三振117個も自己最多。100個を超えたのも初めてだった。長打を追い求めれば比例するように増える部分で「仕方ない」と受け止めている一方で、そこに自身の伸び代を感じている。「三振はすぐ凡打。前に飛べば何かしらあるので、甘い球をファウルにしたり空振りしたりしての三振なのか、投手が良くての三振なのかでも全然違う。前に飛ばせるボールがある中で前に飛んでいないのは、そういうところは減らしていきたい」と、長打と確率の両輪を求めていく。
シーズン序盤の不振についても、今だから原因を理解できている。「打球の角度を高くするイメージを持っていたんですけど、相談もしながらライナーにするようになっていい方向に行った」。本来のスタイルでもあるヒットマンのようなイメージに戻したことが、結果にもつながった。「一概に軌道、弾道を上げるとかそういうのじゃないともわかりましたし、強い打球を打つのがヒットにもつながる。その延長でホームランにもつながったので、欲を出しすぎないことだと思う」と、12年目を終えても勉強ばかりだ。
交渉に同席した三笠杉彦GMは「今年以上の成績を残してくれというのはなかなか酷ですけども、衰えるような年齢ではないと思う」と期待を寄せる。近藤も「まさかここまでホームランを打てるとは……。来年大丈夫かなみたいな、思う時もあります(笑)」と、自分自身が残してみせた成績というハードルに対して不安も重圧も、期待も感じている。今季に得た全てを生かして、2024年こそ頂点だけを目指す。
「(2023年は)悔しいの一言ですかね。1位ともだいぶ差がありましたし、最後にっていうところでもあと一歩で行けなかった。そういう悔しさが残るシーズンになった。ここにきて、優勝するためと思っているので、できなかったというのはもっとできることがある。来年に向けて自分自身の課題としてやっていきたいです」
自主トレは例年通り、鹿児島・徳之島で行う予定。打撃において常に“究極”を追い求めてきた。相手はもちろん、近藤健介にとっていつだって超えるべきものは自分自身だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)