「やばい、キャッチャー獲った…」ドラフトで恐怖 覚悟した戦力外、ライバル加入で見えた目標

ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:藤浦一都】

遠征先の韓国で見ていたドラフト会議「キャッチャー獲ったって…」

 4度目の秋、正直、“クビ”も覚悟していた。

「めっちゃ怖かったです」

 2023年のプロ野球ドラフト会議が行われた10月26日、ソフトバンクの石塚綜一郎捕手は3軍遠征先の韓国にいた。気が気ではなかった。一体、ホークスはどんな選手を指名するのか……。ドキドキしながら宿舎でドラフト会議を見つめていた。

 ドラフト会議で指名された選手とポジションやタイプが被ってしまえば、その後の戦力整理の対象になりかねない。現役選手にとっては人生を左右しかねない日。育成4年目を終えた石塚も祈るような思いだった。

「本当にヤバいと思っていました。第1次戦力外は10月頭ぐらいから始まるじゃないですか。2度目の韓国遠征前に一度、育成の戦力外が出て、韓国遠征中にドラフト会議。みんなで見てたんですが、『やばい、キャッチャー獲った……』って。めっちゃ怖かったです」

 予想していた通り、ドラフトが終わって3軍が韓国から帰国すると、2次戦力外通告がなされた。石塚自身は来季もプレーできることになったが、安堵は出来ない。ドラフトで支配下の捕手、そして同学年の右の長距離砲が指名されたことで、石塚は大きな危機感を募らせることになった。

 特に意識するのはドラフト3位の廣瀨隆太内野手だ。慶大から入団した右の長距離砲は、東京六大学通算20本塁打の実績を引っ提げ、打球の速さや飛距離は世代トップクラスと評されている。石塚は高卒で入団したが、大学に進学していたらドラフト同期だった。本来の守備位置こそ内野手と捕手で違うが、共に一塁や三塁を守る可能性もある。右の長距離砲という点でライバルになる存在だ。

「それこそ年齢が来年の大卒組と一緒で、タイプ的に同じなのが廣瀬。スカウトの松本輝さんにも『廣瀬に勝てば支配下』って言われました。来年入ってくる支配下組に勝てば、廣瀬に勝てば、ドラフト2位ですよ」。ライバルの出現により、まず目指すべき“支配下登録”が明確になった。

「自分の去年の成績より、支配下組の成績、廣瀬の成績を越せば、というのは新しい目標だなと思いました。確かにそうすれば、支配下が近くなるんじゃないかな、と。自分とももちろん戦うんでしょうけど、確かにそれもあるよねって思って。支配下組より成績残せばいい。納得しました」

 石塚自身、4年前に指名を受けていなければ、大学に進学する予定だった。そうなれば、今年のドラフトでプロ入りを目指しただろう。「みんなに言われます。大卒やったら支配下指名やったなって」。複雑そうな表情も浮かべつつ「でも、ここでの4年間がなかったら、多分こんなにバッティングは成長していないと思います。1年目の秋、冬に吉本亮コーチと全部イチから変えて、それがあってここまで来られた。その出会いとかがなかったらここまで来られていないので、この4年間は大事だったと思います」と受け止めている。

 今季序盤、石塚は打ちまくっていた。主戦場は3軍だったが、5月上旬には2桁本塁打をマーク。「これでも上がれないのかっていうのは正直ありました」。もどかしい気持ちを抱えながらも「もっと打つしかない」と黙々と結果を求め続けた。今季2軍で得たチャンスは14打席。主に代打だった。「先発で出て3?5打席ぐらい立てたら1本は絶対打てる自信はありますが、1打席しかないので。代打で1本打つのは、本当に難しいんだなと改めて思いました。でも、このまま『惜しい』で終わったら、終わりじゃないですか」。今の立場を自覚し、現状を打破するために足元を見つめる。

 来季へ向けて、年明けは甲斐拓也捕手の自主トレに参加する。「捕手の技術を上げていかないと試合にも出られない」と“打てる捕手”として勝負する覚悟でいる。「捕手が出来て打てたら、プロ野球の世界、強いんじゃないかと」と一貫して捕手として勝負するつもりだ。一塁や三塁の守備に就いたこともあるが、それは試合に出るためであって、ゴールは“打てる捕手”。ライバルの出現をチャンスと捉え、勝負の5年目へとオフも汗を流す。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)