甲斐野央が球団に出した提案 キッカケは巨人・坂本勇人…自身を変えたトレーニング

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・甲斐野央【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・甲斐野央【写真:藤浦一都】

「僕は少なくとも、絶対に意味があるなと思います」

 レベルアップのために球団にぶつけた要望だった。11日に本拠地PayPayドームの球団事務所で契約更改交渉に臨んだソフトバンクの甲斐野央投手。400万円増の年俸4000万円(金額は推定)でサインした交渉の席で、球団側に“ある要望”を伝えていた。

「ドームとか筑後に初動負荷トレーニングの器具を設置してください」

 初動負荷トレーニングとは、鳥取に拠点が置かれているトレーニング施設「ワールドウィング」の小山裕史代表が考案したトレーニング法でイチロー氏や山本昌氏ら数々のアスリートも取り入れている。専用のマシンを使って行うトレーニングで反射機能の促進や神経筋制御の向上、瞬発力、加速度、パワーの向上、関節可動域の拡大、故障の防止などが期待できる。

 甲斐野も2年ほど前からこのトレーニングを取り入れるようになった。「千賀さんとかとお話させていただいて、ピッチャーに関しては、出力が上がっていく中でそこに特化し過ぎちゃうと、怪我のリスクが増えると勉強していて感じています。可動域も広がるし、普段使っていない筋肉を動かすこともできて、ドライブラインとかも相乗効果で生きるんじゃないかと、個人としては思う」とお願いしたという。

 この初動負荷トレーニングのできる施設は、福岡市内ではPayPayドームにほど近い西新にあるだけ。甲斐野は2年ほど前からそこに通ってきたが、より普段から活用したい、そして、「器具がドーム、筑後にあるだけで興味を持って触ると思う」と、後輩や他の選手たちも興味を持つのではないか、と感じたという。

 その施設で目の当たりにしている光景をこう表現する。
 
「皆さんすごく姿勢がいいというか、生き生きされている。年配の方でも、僕らよりもトレーニングする時のフォームが綺麗。根本のところで、野球選手じゃない、人間としての体の使い方も大事なんじゃないかな、と僕はすごく感じている。(ドームに)あるだけで選手は絶対に使うと思いますし、興味を持つと思うので、そこは取り入れてもいいのではないかなと思います」

 甲斐野がこの初動負荷トレーニングに興味を持ったキッカケは、巨人の坂本勇人内野手だった。「交流戦の時とかに東京ドームに行ったときにビジターのブルペンの近くに初動負荷の器具が置いてあるところが一室あって、坂本勇人さんがそれをされていたんです。その時に話を聞いていく中で絶対に大事だな、と思ってからですね」。

 実際にトレーニングを取り入れたのは、怪我に長く悩まされていたからだ。2018年のドラフト1位で入団し、1年目に65試合に登板。だが、2年目の2020年、キャンプ中に右肘の違和感を訴えて離脱すると、2021年、2022年も怪我の影響で思うようなピッチングができなかった。「2年目に全然良くならなくて、3年目ぐらいから始めました」。少しずつ、その効果を実感するようになった。

「僕は少なくとも、絶対に意味があるなと思いますし、肩の可動域、股関節の可動域は上がっている。そういうモビリティの部分でトレーナーさんとかにも褒めていただくので。そこって大事かな、と」

 今季は5月13日に初昇格すると、シーズン終了まで1軍でプレーして46試合に登板した。3勝1敗8ホールド2セーブをマークし、防御率2.53。まだまだレベルアップの必要はあるものの、不安を抱えたまま投げていた過去2年と比べれば、明らかに状態は上向いてきている。

 当然、体だけでなく技術、頭脳でも進化しなければならない。「自分のいいボールを投げるとかっていうふうに優先しがちになっているピッチャーは多いと思うんで、まずバッターを抑えることが一番大事なところ。倉野さんからも『いい球投げよう選手権じゃない』っていうお話を受けているので」。配球面やバッターの特徴の把握も含めて、更なる向上を目指す。

(鷹フル編集部)