周東佑京が認める“隠れたスピードスター” 4年目外野手の意識を変えた秋の教え

ソフトバンク・笹川吉康【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・笹川吉康【写真:藤浦一都】

秋のキャンプで周東が若手選手に走塁技術を伝授「深かったです」

 日本が誇るスピードスターも一目置く脚力の持ち主だ。ソフトバンクの周東佑京内野手に、自身に迫る俊足の若手について尋ねると意外な人物の名前が挙がった。「吉康とシモン。吉康、結構速いですよ」。来季が4年目、圧倒的な飛距離が魅力で“ギータ2世”とも称される笹川吉康外野手だった。

 笹川と言えば、驚異のスイングスピードやパンチ力に注目が行くが、もともとは走攻守三拍子揃った選手との前評判で入団してきた。3年目の今季はウエスタン・リーグで90試合に出場し、打率は.211。目標の3割は遠かったものの、取り組む姿勢を含めて、様々な面で小久保裕紀監督が今季大きく成長を認めた1人だった。

 今年残した種々の成績の中で、意外にも11盗塁はウエスタン・リーグで2位。「ちょっと打率が低かったんで、そもそも塁に出るチャンスが……(笑)。その状態で、まあまあ走れたのは自信になりました」。打撃面で苦しみ、3軍にいた時期もあったため、盗塁機会は多くなかったが、特にシーズン後半は積極的に次の塁を狙った。

 決して盗塁の技術に優れているわけではない。笹川自身も「まだ技術はなかったので、野生的な走りで」と笑う。「たぶん1回ぐらいしかアウトになってないんですよ」。実際には今季、3度の盗塁死を喫しているが、スピード面に手応えを感じたのは事実。周東も認める速さはポテンシャルの塊でもある。

 秋の「周東塾」が大きな転機になりそうだ。キャンプで周東が若手に盗塁、走塁技術を伝授する機会があり、若鷹たちにとって貴重な時間になった。笹川はこの時間をこう振り返る。

「スタートを切るタイミングとか、その技術かなと思っていたんですけど、走り方とかリード時の両足の体重比とか深かったです。良いスタートを切りたいと思ったら、僕はピッチャーを見て集中する、と思っていたんですけど、佑京さんは自分がスタートを切りやすい体勢も考えていて」

 塁上で球界屈指のスピードスターが考えていることは、想像以上に深かった。盗塁成功に至るまでには考えるべきことがいくつもあり、周東は、すぐにスタートを切れるように進行方向に体重を乗せ、手でタイミングを測っているという。

 リード幅についても周東との違いを痛感させられた。「やっぱりアウトになりたくなくて、僕はリードいつも小さめなんです。でも、佑京さんだってあれだけ出ていてアウトになることもある。そこを怖がってたらダメだなっていうのも教えられて。コンマ何秒の差でアウトになるんだから、ちょっとでも出た方がいいですよね」と笹川は頷く。

 その時に実際に周東のリード幅を体感すると「こんなに出ていたんだ」と驚くばかり。それだけ大きく離塁していても、技術さえ身に付ければ帰塁もできることも知った。「佑京さんよりも身長もデカいんで、普通に考えれば佑京さんより出てもセーフになれるはず」と“ギリギリ”を攻めるリード幅も来季までに探すつもりだ。

「まず1年間、試合に出続けて、塁に出たら、もっと盗塁もしたい。絶対に走った方が(試合に)使いやすいってなると思う。(2軍の盗塁王を)狙えるんじゃないかと思ったりはしました」。自信は深まり、そして盗塁への意欲もより湧いてきている。2軍で出続けて結果を残していけば、自ずと1軍も近づいてくるはずだ。

「佑京さんも言ってたんですけど、1軍で走れる選手って今そんなにいないからチャンスだよって。三森(大貴)さんと佑京さんぐらい。みんなそんなに盗塁はしないって言ってたんで、だから盗塁できる選手が欲しいはず」。持ち味の長打力にどうしても目が行くが、笹川自身は「足から(1軍に)入り込むっていうのもアリ」とイメージを膨らませる。

 打撃には誰しも好不調の波があり、外国人助っ人などのライバルも多くなる。「打つだけで勝負だと、相当打たないと勝てない。守備と走塁でもうちょっとアピールできれば使いやすいのかな、と。せっかくあるなら三拍子磨いて、ちょっとでも(1軍でやれる)確率を、可能性を上げた方がいい」。球界トップクラスのパワーを磨くのは当然として、選手の幅を広げながら笹川は4年目に挑む。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)