田浦文丸のチェンジアップは“世界一級”だった メジャー最強クローザーの魔球に匹敵

ソフトバンク・田浦文丸【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・田浦文丸【写真:荒川祐史】

秋季キャンプの計測が失っていた自信を取り戻すキッカケに

 最大の武器は“世界一”に匹敵するものだった。今季、45試合に登板し、2勝1敗7ホールド、防御率2.38とキャリアハイの成績を残したソフトバンクの田浦文丸投手。左腕の最大の持ち味は独特の変化を見せるチェンジアップで、2019年にダルビッシュ有投手(現パドレス)が自身のX(旧ツイッター)で絶賛し、話題になったことでも知られている。

 今秋、筑後のファーム施設で行われた投手キャンプで米トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」による計測を受ける機会があった。田浦の投じるチェンジアップを目の当たりにした同施設のスタッフから「エアベンダー」だと絶賛されたという。

「エアベンダー」とはMLBのブルワーズに所属するデビン・ウィリアムズ投手が投じるチェンジアップの代名詞。今季のナ・リーグ最優秀救援投手にも輝いた右腕のチェンジアップは、高速で急激に曲がり落ちる軌道から“空気をねじ曲げる”という意味でそう呼ばれている。そんな世界一と言われる“魔球”に、田浦の球も例えられたのだという。

 実は一時期、チェンジアップを封印しかけた時期もあった。感覚を見失い、ストライクゾーンになかなか放れなくなった。「1球、ボール球を放るのがもったいないかな、という思考で、どんどん投げなくなっていきました」。怪我をしたこともあって、持ち味を消していた。昨秋、1軍投手コーチ就任が決まった斉藤和巳投手コーチ(来季は4軍監督)に「お前はなんでプロに入ったんだ? チェンジアップが良くて入ったんだろ?」と言われたことで、武器と向き合うようになった。

 今季も「もっとカウントをとれるようにチェンジアップを変えようと思っていた」と試行錯誤していたが、キャンプ中にドライブラインのスタッフから「変えない方がいい」と諭された。さらに言われたのは「それをストライクに投げるだけでいい」。ゾーンに投げても簡単には打たれないという賛辞が、自信を深めさせてくれた。

 握りはいわゆる「サークルチェンジ」。決して特殊な握り方というわけではない。では、何がそんなに凄いのか――。

 特徴は回転数にある。チェンジアップはストレートより回転数が少なく、メジャーリーグの平均は1700~1800回転/分と言われている。田浦は今季最大で2220回転、平均でも2000回転/分を超え、本人曰く計測した際には最大で2900回転/分前後を記録したという。ウィリアムズのチェンジアップは平均で2700回転/分を超え、今季最大で2988回転/分を記録していた。ストレートよりも多い回転を水平方向にかけることによって強い変化が起こるのだ。

 田浦自身の野球への向き合い方も変わってきた。元々感覚派だが、身体の使い方やトレーニングを知っていくうちに「そういうのが分かるようになってきて楽しくなってきた。(プロ入り当初は)全然何も考えていなかったですし、言われたことをやるだけでしたけど……」と頷く。特に去年、リハビリ組にいた時間で学んだことが大きかった。学ぶ意欲が増した田浦は勝ち負けだけでは語れない野球の楽しみを覚えた。新たな野球の魅力を知り、来季更なる進化を遂げてみせる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)