【連載・周東佑京】「言って変わることがある」 感じ始めた意義と“伝える使命”とは

ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】
ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】

4月から11月まで鷹フルが月イチ連載…取材を振り返って周東佑京が語ったこと

 鷹フルがお届けする主力選手の月イチ連載で、4月から11月まで周東佑京選手についてお届けしてきました。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の影響もあり露出も増えた1年で、周東選手なりに感じた“伝える使命”とは? 言葉1つからもリーダーシップが芽生えるようなシーズンでした。また、連載取材を担当した竹村岳記者の目線で、周東選手の人柄に迫ります。

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 月に1度、10分から15分ほど時間をいただいて、周東の言葉に耳を傾けてきた。【連載】の冠がつく記事は全部で18本だった。選手同士の会話では口数が多く、人見知りもしない。性格の面において、印象の大きな変化はなかったが、グラウンドでのプレーからは自覚とリーダーシップが芽生え始めた。取材を通しても、確かな成長を感じた1年だった。記事やSNS自体は「あんまり見ていないです」と笑いながらも、鷹フルの連載取材を、こう振り返る。取材者冥利に尽きる、ありがたい言葉だった。

「自分のしゃべりたいことはしゃべることはできたと思います。試合終わりでも、いろいろ伝えたかったことだとか、自分がどういうふうに考えていたとか。他に比べれば、こっちの方が話せたかなと思います」

 続けて語ったのは“伝える使命”だった。「言わないといけないことは絶対にある。今こういう時代ですし、言って変わることがあればいいなと思います」。メディア露出という意味では決して「目立ちたがり」というタイプではないが、自分の意見をハッキリと言わないといけない時は必ずあると強調した。周東の今季を振り返った中で思い当たるのは数試合あるが、そのうちの2試合を紹介したい。

 1つは7月7日の楽天戦(楽天モバイルパーク)。1点を追いかける9回1死一、三塁で、周東は三塁ランナーだった。アルフレド・デスパイネ外野手の浅い飛球がセンターに舞う。中堅は辰己涼介外野手で、結果的に周東はタッチアップを自重した。相手が松井裕樹投手だったのもあり「勝負をかけてもよかったのではないか」という一部のファンの意見に周東は「普通に無理だなって思って。あれで行けると言っている方がおかしい」とキッパリ語っていた。自分が本塁でアウトになればゲームセットになる状況。自分なりに描いた“最悪の想定”に、自信もプライドも抱いていた。

 もう1つが、9月17日の日本ハム戦(エスコンフィールド)だ。5点ビハインドの7回1死一塁で3球三振。バットを振り上げると、思い切り地面に叩きつけた。今宮健太内野手や中村晃外野手が特例2023で登録抹消となったばかりで、先発の和田毅投手もベンチでグラブを投げつけた試合。チームは苦境だった。周東は「見ている側からすると気持ちのいいものじゃないと思います」と反省しつつも「それだけこっちも本気でやっていると思ってもらえたら」とも語っていた。1勝を諦めていない何よりの証だった。

 支えてくれる人の声に理解と感謝を示しながら、時には全力で戦う選手たちの思いを代弁するようなコメントを残す。WBCの影響も受けてインスタグラムのフォロワーが倍になるなど、ファン人気は確実に高まった1年。「できるだけ発信はしない方が楽ですからね、僕としては」と笑いながらも、プレーはもちろん、発言1つにも責任を帯びるようなシーズンだった。

ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】
ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】

 1軍の選手取材を管理する西田哲朗広報は「こちらから『受けてほしい』と言うときは、彼は断ることをしなかった」と、取材に対する真摯さに感服していた。本人は「僕、基本断りますよ。断りますけど『行きます』みたいな」と照れ笑いする。鷹フルとしても何度も取材させてもらったが、試合後、狙いを持って周東のもとに行くと、必ず足を止めてくれる。回答も受け流すようなものではなく、質問の意図と狙いを1度自分の中に吸い込んで、しっかりと返してくれる。取材を通して、周東の律儀さと真摯さに触れた1年だった。

 唯一、周東が「しゃべりにくい時とかはしゃべらなかったですけどね」と言うのがクライマックスシリーズの時だった。ロッテとのファーストステージの1戦目、左ハムストリングを痛めながらスタメン出場するも、8回の守備から途中交代となった。その試合後、周東は問いかけに首を横に振って球場を後にした。「シーズン中だったので怪我のことはあまり言えなかったんです」と申し訳なさそうに頭を下げる。

 しかし、普段から丁寧に応じてくれる周東なら、それすらも正解だったと思える。チームや選手自身の状態を踏まえて、話せる状況なのか、話しづらい状況なのか。それくらいは取材側にもわかるもの。「周東が話せないのなら、話せないことなんだ」と理解も納得もできた。それを改めて伝えると「ある程度、伝えたいことは伝えられました。余計なことはしゃべらないようにと思っていましたけど」と、また照れ笑いするのが周東らしい。

 オフシーズンとなって「足、今は大丈夫です」と、久しぶりに笑顔が見られた気がした。個人的意向の段階ではあるが、当然、来年も1年間の連載取材をしたいと考えている。「機会があれば、はい。わかりました」と、前向きな答えをいただいた。選手会長となって迎える2024年、人前で発言する機会はもっともっと多くなるだろう。言葉から、姿勢から、周東佑京の成長を近くで見守りたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)