失った打撃の感覚、万全でない身体 野村勇の1軍昇格は「中途半端」だった…激白したジレンマ

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・野村勇【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・野村勇【写真:藤浦一都】

3月末に手術を受けてリハビリ組へ 50試合出場にとどまりダウン提示も「妥当」

 自分にしか分からない、苦しい胸中だった。ソフトバンクの野村勇内野手が29日、PayPayドームで契約更改交渉に臨み、200万円ダウンの2300万円(金額は推定)でサインした。今だからこそ明かせる真実。6月6日、今季初の1軍昇格は「何も万全じゃなかった」と言う。当時に抱えていた強いジレンマを激白した。

 2022年に10本塁打、10盗塁と確かな爪痕を残し、今季は競争の中心になるはずだった。しかし、春季キャンプ中に腰痛を発症。3月末に内視鏡下椎弓形成術を受けてリハビリ組となった。「前半戦ほとんどいなかったのと、そこからなかなか自分が思うような状態に持っていくことができなかったので(ダウン提示は)妥当かなと思います」と球団の評価を受け止める。50試合に出場して打率.160、3本塁打、7打点で2年目を終えた。

 6月4日の広島戦(マツダ)では、川瀬晃内野手が一塁手と交錯したことで、5日に登録抹消。野村勇は今宮健太内野手とともに、6日に1軍に昇格した。当時も藤本博史前監督は「2人とも万全ではない。でも、もうショートがいないので」と明かしていたが、野村勇はチーム事情を理解しつつ「何もできあがっていない状態でした」と言う。シーズンが終わった今、その時の状態を語った。

「痛さはないけど、何もできあがっていない状態でした。そこはチーム事情なので、チームにいる以上、仕方ないと思います。急遽上がったのもあるんですけど、そういうチーム状況だったので、中途半端になったのもある。怪我も治っていない、実戦も積めていないっていうのは少しあったので。その状態でズルズルと最後まで行ってしまった感じです」

 当時の管轄はまだリハビリ組で、2軍で実戦出場を重ねながら、コンディションを上げていく段階だった。「リハビリ組から(1軍に)行ったので。2軍で実戦しながら、リハビリもしながらという感じだった。それを1軍で試合に出ながら治そうと言う感じだったので、何も万全じゃなかったです」。6月17日の阪神戦(甲子園)では今季1号を放つなどいきなり結果を出したが、万全な状態を目指す途中にいた。

 腰痛を発症した当時の症状については「朝起きた瞬間に、腰の調子が悪いなと思って。そのままやったら、力が入らなくなっていった感じ。症状は一向に良くならなかった」と語っていた野村勇。その後、8月14日まで1軍に帯同する。体とのデリケートな“相談”を繰り返す必要があった一方で、1軍のグラウンドに立てば当然、全力でプレーする。野村勇が抱えていたジレンマは、とても大きなものだった。

「打撃の感覚もそうですけど、リハビリもしないといけないですけど、(処置をしないと)症状が出る。試合に出るとなると、症状が出ていたらダメなので。リハビリもできないけど、試合には備えるけど、試合には出ないみたいなところ(に苦労した)でした。そこが大変でした。どうしたらいいのかなって、そこは中途半端だったと思います」

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・野村勇【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・野村勇【写真:藤浦一都】

 相手からの攻めについても、変化を感じ取った。パンチ力が持ち味である一方で、今季も81打数で33三振と確実性に課題を残した。「1年目の時は全然そこ(苦手なコース)に来なかったのに、今年はそこばかりが来た」。秋季キャンプではドライブラインに取り組み、課題も持ち味も科学的なアプローチで明確にした上で「2月に(キャンプに)行った時には直っていないといけない点」と受け入れた上で、オフシーズンを過ごしている。

 球団との交渉の席では、本拠地の施設について意見を伝えた。ドーム内の打撃練習場は「狭いですね。投手との距離くらいもないし、そこも2列しかない」ほどの広さだといい、2人が打てば埋まってしまう。基本的に“早い者勝ち”だといい、試合後も「打ちたい人は打ちたいんですけど、待っていたら0時(ナイター後なら)を回ってしまうので、並ばないです。打たないです。“早い者勝ち”と言っても、結局スタメンの人が多いですし」と練習量確保について、去年から抱いている考えを改めて伝えた。

 二塁、三塁、遊撃を守り、時には外野も務める。レギュラーを狙っていく中で「二遊間じゃないですかね」とイメージを語った。「ダメな時がダメすぎるので、ダメな時でもチームに貢献できるように。『代えなあかん』って思われないように」と、自分の課題は誰よりも理解している。3年目となる来季こそ、全てを整えて競争に飛び込んでいく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)