メジャーで学んだ知識を還元 倉野信次コーチが掲げる“改革”…指導者も必要な「成長」

ソフトバンク・倉野信次1軍投手コーチ兼ヘッドコーディネーター【写真:竹村岳】
ソフトバンク・倉野信次1軍投手コーチ兼ヘッドコーディネーター【写真:竹村岳】

「アメリカはオフシーズン休んでいる人はクビになるだけ」

 ソフトバンクは17日、野手が宮崎、投手が筑後で行っていた秋季キャンプを打ち上げた。2年ぶりに復帰し、勉強会などで熱弁をふるった倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)のコメント全文は以下の通り。

――久しぶりにチームに戻ってこられて、チームの中の雰囲気は?
「そこまでわからないですね、正直。だって、主力っていうか、免除組も外国人もいないですし、その人たちが入ったときにどう変わっていくのかっていうところが大事だと思うんですよね」

――データサイエンスに対して選手は2年前よりも興味がある?
「あ、それはありますね。それは間違いなく。そういう質問であれば、間違いなくありましたね。ただ、僕自身もそうだったんですけど、3年前いた時に、同じデータはあったのにそれを扱えなかった。僕自身も含めて扱えなかったっていうことが、今となっては反省点ではあるんです。だから、それが扱えるようになって帰ってきたっていうところは、1つ大きな自分にとってもプラスだったと思う。これからはそういう数字を使えなければいけない時代なんで。ただ、その数字に依存してしまうと良くないよっていうところも、この前、勉強会でも話したんですよ。絶対扱えなきゃいけない。これは基本なんですけど、そればっかりに頼ってしまったらいけないよっていうところも、そこも勉強しなければいけない」

――選手にも理解度の個人差はありますか?
「あります、あります。それはコーチにもあります。コーチ全員が同じスキルを持ってるわけではないので、それはコーチ自身も高めていかいかなくてはいけない。僕は選手も成長しなければいけないし、コーチが成長しなければいけないと思っているんですよ、根本的に。じゃないと選手が育つ環境にならないっていう、ここが1番重要なんで。僕はどっちかっていうと、そっちに今、重きを置いているというか……。だって僕1人では何もできないですから。僕1人の力では選手をよくできないんですよ。他のピッチングコーチもそうだし、他のスタッフ、トレーナー、ストレングスやデータ班も含めて、みんなの力を合わせて 1人の選手を育てていくっていう環境にしないと、選手がかわいそうですよね。もう時代が違いますから」

――選手のドリルをコーチ陣が作ってあげる。
「ドリル自体は今までもあったんですよ。ドリルって呼んでいないだけで。みんな考えてやっていたんですよ。それをドリルって言うと、なんか特別なことのように思いますけど、今までもあったっていうことです。ただ、その引き出しは増やさないといけない。確実に。これはピッチングコーチの前でも言いましたけど、オフシーズンはこの引き出しを増やせるように皆さん頑張っていきましょうねっていう話はしました」

――勉強会でコーチ陣から質問されたことは。
「基本的にこの勉強会、あまりディスカッションしてないんですよ。僕が思ってることをバーって喋っただけなんで。そこは次の課題かなという風に思いますけどね。どう思って、どう質問すればいいのかも含めて、結局、日本の文化ってあまり話したくない、ではないですけど、せっかくなんで言いますけど、質問しづらいんですよ。ミーティングとかもそうだし、質問しづらい雰囲気だから、そこを僕は変えていきたいなと思って。で、自分自身も質問をどんどん気軽にしてもらえるような雰囲気も作らなきゃいけないしっていうのはね、すごく考えていることなんで。具体的に何か質問されたっていうことに関しては、そんなにないです」

――大関投手とかは最後まで残って聞いて帰っていた。
「選手は結構多いですね。あの話もっと聞かせてくださいみたいなのは、お風呂場で会っても、若い人たちがいきなり聞いてきたり、それまで喋ったことのない選手が風呂場で会って『ありがとうございました』『あそこのポイント、もうちょっと教えてほしいんですけど』みたいなのは結構ありましたね。それは嬉しかったですけどね、そうやって興味を持ってもらえたのは」

――選手が興味を持っていることってどの辺りが多い。
「やっぱりアメリカの野球って、誰が見ても世界一じゃないですか。だって、世界で1番すごい選手の集まりですから。WBCは勝ったかもしれないですけど、短期決戦とシーズンは違いますので。メンバーも当然違うし。そういう背景はあるにせよ、メジャーリーグってすごく進んでいるんですよね、考え方が。だから、どう進んでいるのかっていうことは、みんな興味ありますね。だから、それを僕が知っている範囲ですけど、知っていることはちゃんと伝えて。でも、全部いいわけじゃないんですよ、実は。メディアの情報が偏りすぎてて、メジャーリーグのいい部分しかほとんどメディアって流してないんで、偏ってるなってすごい僕思ったんですよ」

「2年間行って、マイナーの現実ってそんなんじゃないよって思ったんですよ。で、メジャーリーグだけじゃないじゃないですか、メジャーリーグっていう組織は、ですね。マイナーリーグの現状っていうのは全然入ってないっていうのに気づいたんですよ。だから、そこを僕はどんどん発信していきたいなと思うんですよね。いいところしかほぼほぼ情報が流れていないっていう現実。だから実はアメリカよりも日本の方が優れてる部分もたくさんあるんですよ。だけど、当然遅れてたり劣ってる部分っていっぱいあるんで、僕はそこを埋めていきつつ、日本の良さを残していきたいって思ってるんで」

――めちゃくちゃ走ることが多いのが秋のキャンプ。今年は走るメニューは少なかった。
「考え方じゃないですか。この3か月で考えて、この期間はこういうことをしましょうね、次の期間はこうですねって、ちゃんとプログラム化されていればいいんですけど、これやりました、あとは放置ですって言ったら、多分失敗に終わると思います、このシステム、このやり方が。この3か月トータルで見てこのキャンプにしたわけで、残りの2か月をどうプログラムできるかっていう。ただ、支配下登録の選手にはそれができない、コントロールできないっていうところもあるし、そこは課題になるのかなと思います。走ることが大事な人は走ればいいんです。そうじゃない人も含めて一律でたくさん練習させたらコーチが満足だ、みたいなことになったらいけないんですよ。選手に応じて何が大切なのか。もちろん、めちゃくちゃ走り込みが必要な選手もいるだろうし、ウエートトレーニングを重視しないといけない選手もいるだろうし、技術をもっとやらなきゃいけない選手もいるし、もっとその細分化をしていきたいんですよね」

――選手1人1人が個々にやることを整理する。
「そうですね。一律でやることって、いいこともあるんですけど、そうじゃない部分もあって。多分、この先はもうどんどん個別化していくと思います。一律でワーッてやるのも必要なんですよ、たまには。目的が違うんで、ワーッてやるのもあるんですけど、この先の時代はもうどんどん個別化されて行くとは思いますね」

「春はまたちょっと違います。チームプレーとかが関わってくるので。シーズンに向かうのと、オフシーズンを過ごしていくのとでは全然違うんですよ。だから、春と秋って全く違うキャンプです。 もう春はとにかく実力を示さないと開幕に入れないわけなんで、春はもう全く違う。秋は個々の能力を伸ばす、課題を克服するっていう意味で、春はどれだけ自分の実力、貯めてきたものを披露できるかっていう位置付けですよね」

――12月に入っても育成練習は見る?
「時間の許す限りそうしたいなと思いますけど」

――アメリカは春のキャンプの時期に100パーセントじゃないと1番クビになる期間だと。
「日本もアメリカも、ベテランはそんなにですよ。ベテランっていうか、絶対に1軍が決まっている人っていうのは、そういうわけじゃないんです。それ以外の選手は、2月1日にどれだけの状態で来られるかっていうのはすごく問われると思うんですよね。これは日本もアメリカも一緒かな。ただ、危機感が違うんですよ。アメリカは本当にあの時期が1番クビになるんで。オフシーズン休んでいる人はクビになるだけなんで」

「日本はクビにならないじゃないですか、休んでても。シーズンの始まりだから、そこからさらに10か月いるわけですから、どれだけやってこなくても。このシステム自体にやっぱり大きな差があるんで。だから秋のキャンプでやらせたいってなってしまうんですよ、コーチが。オフシーズンに信用できないから。信用している人はそもそもキャンプに来ないじゃないですか。選手が信用されてないからキャンプがあるわけじゃないですか。やらせるわけじゃないですか、信用されていないから、っていうことなのかなと思いますけどね」

――最後のミーティングで選手に伝えたことは。
「もうこのオフシーズンが勝負だよ、と。もうそれしかないです。だから、ちゃんとやってきてねって。やってこなかったらチームとしてマイナスだから。クビにして、アメリカみたいに次の新しい人を入れるシステムならいいですけど、そうじゃないんで。僕らも上げていくしかない。だから、とにかくこのオフシーズンが勝負だよっていうのは強くトレーナーの方からも言われましたし、僕の方からも強く言わせてもらいました」

――このオフ、コーチ陣の意思疎通を図るミーティングをやる。
「1月にします。12月はしないですけど、それぞれで勉強してもらえばいいし、1月にしますね。ミーティングはとにかく多くなります」

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)