選手が履き違える“自由”…米国では「クビになる」 倉野信次コーチが鳴らした警鐘

勉強会を行ったソフトバンク・倉野信次コーチ【写真:球団提供】
勉強会を行ったソフトバンク・倉野信次コーチ【写真:球団提供】

倉野信次コーチが投手陣に実施した勉強会「アメリカの教育事情」

 1度離れて強く感じたのは、ホークスは変わらないといけないということだった。ソフトバンクは11日、秋季キャンプ第3クール2日目を迎えた。投手陣が鍛錬に励む筑後で、先頭に立っているのが倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)だ。この日は投手全員が参加する「勉強会」が行われた。その中身、そしてチーム全体に感じたのは「かなり意識改革しないと」ということだった。

 45分1コマで、計6回実施される予定。選手とのディスカッションの時間は「なしにしている。終わってから、したい人は残ってくれと言ってある。ちょっと45分では足りなさすぎる」と言うほど、濃密な時間。練習メニューの1つにも組み込んであり、自由参加ではない。藤井皓哉投手や松本裕樹投手ら、1軍で実績のある選手も参加してもらい、同じ方向を向きながら、少しでも技術向上のために力になろうとしている。

「何かを教えるという勉強会ではなくて『こういう感じだったよ』というのを(選手が)聞いて、日本と比べて、じゃあ自分たちはどういうふうにしていかないといけないのか。感じて、考えてもらうきっかけにしたいっていう意味合いが強いです。モチベーションを上げるという意味で話をしていて、今日はアメリカの教育事情について話そうと思っています」

 一例を挙げたのは、NPBとMLBの環境の違い。10日の勉強会ですでに選手にも伝えたといい「日本って、こんなに恵まれてるんだよ、ということ。ここで成績を残せない人が、どうやってメジャーリーグに行くんですか? 言わないだけでメジャーを目指している選手は多いですよ」と、両国を経験した倉野コーチは、NPBも環境面においては非常に優れているという。これだけの環境を活用して技術向上ができなければ、さらに上のレベルで戦っていけるはずがないと訴えていた。

 メジャーリーガーといえば、派手な髪型やアクセサリーなどを着用してグラウンドに立つイメージがある。倉野コーチも「“アメリカは自由だ”みたいな(イメージが)あるじゃないですか。僕もありました」と認める。それが2年間の経験を積んで「行ってみたら向こうの方がルールも多いし、方針もガッチリと固めている。その中で伸び伸びやってくださいというもの。そこを履き違えないでほしい」と、考えは一変した。

「秋のキャンプもそうです。秋のキャンプはアメリカにもあります。時期が(日本よりも)1か月早いだけです。僕はそれをやってからこっちに来ていますから。でも、向こうは2月には完全に勝負できる状態で現れないと、クビになるんです。スプリングキャンプは一番クビになる時期ですから。だから仕上がりが1か月早いんです。そうなると、スケジュール的には日本と同じですよね。『休みがない』っていう人もいますけど、時期がずれているだけです」

投手陣全員参加で行われた勉強会の様子【写真:球団提供】
投手陣全員参加で行われた勉強会の様子【写真:球団提供】

 見た目こそ派手だが、MLBの各球団が設ける制約はNPBの比ではないと言う。「アメリカの方が理不尽なことだらけですから」。プロ野球選手の1人として、チームを構成する一員として、決められたルールは守る。極められた凡事徹底があったからこそ、レンジャーズは2023年、世界一に輝いた。「(レンジャーズは)野球に対してどういう姿であるべきか、どう取り組むべきか、どういうマインドセットで練習に取り組むべきなのかという教育がすごくあるんです」と続ける。

 日本のプロスポーツの中で長い歴史を誇り、注目も浴びるNPB。その中で倉野コーチは「選手の発言力が今、強くなってきて、そこの(選手間のルールと自由の)パワーバランスはちょっと崩れてきている」とNPBの特性を挙げながら、警鐘も鳴らした。小久保裕紀新監督が就任会見で掲げた「美しいチーム作り」にも重なる言葉。「(MLBのイメージを)選手が自分たちの都合のいいように解釈している部分が大きいんじゃないかな。そうじゃないよ、っていうのを伝えたかった」と言うのも、選手のモチベーションにつながってほしいからだ。

 2日からスタートした秋季キャンプも、10日が過ぎた。倉野コーチも「まだ1週間ですから」とした上で、選手から感じたものを、こう語る。

「雰囲気を見たらわかりますよね。これはかなり……意識改革しないと、本当に1軍で活躍できる選手がこの中からどれだけ生まれるんだろうって考えると、意識を改革しないと難しい。そうなると、1軍の戦力のレベルがどんどん低くなる。なんとかしてそこを引き上げないと、1軍のレベルも上がらないですよね」

 あくまでも「こうしなさい」というテンションではなく、倉野コーチはきっかけを与えるだけ。どう解釈して、結果に繋げようとするかは、選手次第だ。プレーして勝利に貢献するのは選手ではあるものの、選手が戦えるのもルールがあるからこそ。一流の選手には、それだけ極められたプロ意識がある。どの世界に置き換えても言えることだ。

(取材・米多祐樹 / Yuki Yoneda)