新たな役割にまだ戸惑いは隠せない。野手陣が宮崎、投手陣が筑後で行う今年のホークスの秋季キャンプ。第3クールが始まった10日から宮崎の生目の杜運動公園には、1軍投手コーチから配置転換となった斉藤和巳4軍監督の姿があった。第2クールまでは筑後、そして第3クールは宮崎で過ごし、また第4クールには筑後へと戻る予定で、新たな役割に慣れようと日々、動き回っている。
昨季は1軍投手コーチとしてシーズンを通して慌ただしく過ごした。チームは泥沼の12連敗を喫するなど、夏場以降に失速して3位に終わった。ロッテとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでは第3戦で3点リードの延長10回に4点を奪われて壮絶なサヨナラ負け。投手コーチとしての責任を痛感し、自らの今後についても思いを巡らせた。
そんな中で球団から打診されたのは、1軍投手コーチから4軍監督という大幅な配置替えだった。オファーを受けた際には当然、戸惑いもあった。「全然、予想していなかったよね。どうなるかも分からないな、と思った」。予想だにしなかった役割。イメージも湧かなかっただけに「悩んだし、いろいろ考えたよね」。受諾するまでに時間はかかった。
背中を押したのはかつて共に投手陣を支えた先輩でもある永井智浩編成育成本部長兼スカウト部長の言葉。斉藤4軍監督は「永井さんに『想像ができないならやったほうがいいんじゃないか』『想像できている中で悩んでいるんだったら辞めろって言う』『想像できていないからこそやってみてもいいんじゃないか』って言われた。その言葉にちょっとハッとさせられた」とその時を明かす。
自分の中にはなかった「想像できないならやってみてもいい」と言う考え方。「シーズン中にはいろいろなことがあったし、次の段階に向けて考えていた部分もあった。自分では想像していない配置だった」。イメージできない仕事だからこそ、新たな挑戦として、受諾することを決めたという。
現役時代は、1軍監督となった小久保裕紀に習い、ひたむきに野球に打ち込んだ。マウンド上でほとばしる気迫はもちろん、右肩を故障してリハビリ生活が続いた現役晩年も、手を抜くことなく、懸命にリハビリに励んだ。そんな姿勢や1日1日、1球1球に賭ける執念や必死さを、若い選手に落とし込んでもらいたい――。球団として、そんな狙いが透けて見える。
「(球団からは4軍監督に)適しているって言うような言い方はずっとしてもらっていた。球団がイメージしているところと、何か一致する部分があったりするんじゃないかな」
今季からスタートした4軍は来季、また少し育成方針を変える。今季は4軍だけで73試合が組まれた一方で、チーム全体で抱えた怪我人によって4軍の選手数が足りなくなったり、3軍戦への出場もあったりで、若手が体力強化や技術習得に励むための練習時間が十分に確保できないといった課題にも直面した。
「4軍監督の要請を受けて返事をする前に、何試合ぐらいあるかというのを聞いていた。体力がないと、技術はなかなかつけられない部分もあるから、練習の時間はある程度欲しいというのがあった。(試合数を)減らしてもらいたいっていう話はしようと思ったけど、球団がそういうふうに先に考えてくれていた。4軍は別に試合が主じゃなくていい。たまに試合ができたら。3軍も試合数が多いからそっちに4軍から出られるようにするとかね」
4軍単体として稼働するのは、来春キャンプが終わってからになるだろう。「誰が4軍に来るのかも分からないし、どういう風にやっていくかっていうのは、自分1人で考えていくものでもない。各担当のコーチがいるから、その人たちの頭脳を借りたほうがいいと思っている」。まずは4軍首脳陣とのコミュニケーションを深め、連携をとっていくことが大事だ。
「『監督』とは呼んで欲しくないよね。監督、コーチが偉いとは思っていないし」という斉藤4軍監督は言う。若鷹たちの良き“アニキ分”として、2024年は若鷹育成の役を担う。