キャリアハイを支えた球種…松本裕樹が手に入れた“自信” 終盤で好調を維持できた要因

ソフトバンク・松本裕樹【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・松本裕樹【写真:荒川祐史】

筑後での秋季キャンプに参加中、すでに2024年はリリーフ起用と首脳陣から通達

 確かな手応えを握り締めて、2024年に向かっていく。ソフトバンクの松本裕樹投手は今季、シーズンを通してリリーフとして存在感を示した。多くの面でキャリアハイの成績を残し、すでに来季も中継ぎで起用されることを倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーターから通達されている。今季の飛躍を支えたのは、自信を深めた変化球の存在があった。

 2022年は44試合に登板して5勝1敗、防御率2.66と最終的にも「7回の男」に定着するほど、首脳陣からの信頼も得た。大きな期待を背負って今季を迎えたが、オープン戦では防御率6.00と振るわず。シーズンが終わった今、振り返ってみても「前半は試行錯誤しながら、良かったり悪かったり、波があった。後半はいいピッチングを続けることができたので、シーズンを通して(終盤に)パフォーマンスが落ちることがなかったのは良かったです」と言う。

 今季は開幕1軍に入ったものの、23試合を終えた時点で12試合に登板するなど、ハイペースでの登板を重ねていた。5月13日に1度抹消されて、10日で再登録。6月は6試合に登板して無失点。7月は防御率4.50だったものの、8月と9月&10月は防御率1点台で、上昇気流を描いてシーズンを終えた。春先に思うようにいかなかったのは、自分の中で整理ができていなかったと話す。

「結局その年によってフォームとかも微妙に変わってくる。その辺を上手く調整する前に前半はバタバタしてしまいました。そういうところで体にも負担がきていたので、それがあってからは後半は良くなってきていました。オープン戦もあまり良くなかったですし、だんだん自分がやりたい動きができなくなっていくような感じでした。開幕してすぐのところで登板の頻度も高かったりして、1回抹消になった感じでしたね」

 少しずつ狂ってしまっていたフォームのメカニック。改善したポイントについても「下半身にも、体幹といった上半身にも、それぞれにありました」と微調整して、後半戦の存在感につなげた。今季は9年目。「後半は(登板も)いいペースで投げられた。そうすれば安定して投げられるのかなっていう。ハナから8回で固定されていれば、(肩を)作る回数も減ったり、いく時も明確になるので。その辺が明確になると体の負担は変わってきましたね」と、自らの力で掴んだ“8回の男”という明確な役割も、好調の要因だった。

 結果的に53試合に登板して2勝2敗、防御率2.68。47イニングを投げて60奪三振と、リリーフとして圧倒的な存在感と適性を見せた。深めた自信を問われると「なんだろうな……」。少し考えた後に「普通にやれば、普通というか自分のピッチングをすれば抑えられるというのは去年から引き続いてありました。それが身になった感じです」と、積み重ねてきたものが数字につながったようだ。多くのキャリアハイを残したが「あんまり自分の数字を見ていないし、細かいところは見ていないです」と気にしていないのも、松本裕らしい。


ソフトバンク・松本裕樹【写真:竹村岳】

 松本裕の代名詞といえば、曲がり幅の大きなスライダー。現代野球の主流ともなっている“速く小さく曲がる”カットボールのような軌道は、自分には合わなかった。大谷翔平投手(エンゼルス)が投じるようなスイーパーを理想として、今季は右打者被打率.130と圧倒した。「比較的、三振は取れたかなと思いますね。だいぶ自分の中で扱えて、コントロールできるようになってきました」と、さらなる飛躍を支えたのが、フォークだった。

「今は大きく挟んで投げています。深めに握るようになったのは去年からです。ちょっと前、先発をしていた時はスプリット系で投げていることが多かったので、割と球速が出るような形でした。その時はストレートが速くなかったんですけど、中継ぎになってスピードが出るようになってきて、そこ(直球と)の差を出すために、しっかりとフォークは落とすようになりました」

 入団当初から投げていた球種だったが、本格的に改良を加えたのは昨季からだった。オーバースローから投げ下ろすようなフォームではなく、スリークオーター気味で投げる松本裕。最大の持ち味であるスライダーについても「決まったらいいんですけど、抜けることも多かったんです。その辺のリスクを避けるためにフォークが増えた」と経緯を語る。経験も積んで、1点の怖さを知れば知るほど、リスクの少ない球種を磨くようになった。

 絶対的なリリーフ投手といえば、威力のある直球と絶対的な1つの球種で打者を圧倒するイメージがある。その中で松本裕の武器は、先発投手のような総合力だった。「(スライダーが抜けるのが多い)だからといって、球種を消すのももったいないし、バッターにも絞られる。だからカーブを改良したりして、スライダーが減った感じです。カーブも良くなったので、後半は特にそういう球種が使えるようになったのが大きいです」と自己分析する。研究熱心だった自分の一面が、しっかりと結果につながった。

「手詰まりになるのは自分の中では嫌ですから。変化球を投げたりするのは好きなので、新しいところには常に挑戦しています。去年は“なんか抑えてる”ような状態だったのを、今年は自分のピッチングっていうのができたかなって感じです。去年は勢いでやっている感じが強かったので、自分の身になった感じはした1年でした」

 今は筑後での秋季キャンプに「リカバリー組」として参加している。2024年に迎えるのは、節目の10年目。一歩ずつ、確かな成長を続けて、V奪回を目指すホークスの大きなワンピースになってほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)