新人スカウトの初ドラフト会議 元鷹戦士・古澤勝吾が語る裏側と岩井俊介の魅力

古澤勝吾アマスカウト【写真:福谷佑介】
古澤勝吾アマスカウト【写真:福谷佑介】

2014年ドラ3で入団した古澤スカウト「自分が指名されたような嬉しさ」

 10月26日に都内のホテルで開催された「2023年プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」を特別な感情で迎えた1人の新米スカウトがいた。ソフトバンクの古澤勝吾アマスカウト。2014年のドラフト3位でホークスに入団し、2020年シーズンを最後に現役を引退。球団職員を経て今年1月、新たにアマチュアスカウトとなった。2位で指名された名城大の岩井俊介投手は、自身が担当し、初めて指名された選手だった。

「めちゃくちゃ嬉しかったですね。自分が指名を受けた時のような嬉しさがありました。周りのスカウトの方達にも『おめでとう』って言ってくれたので、担当の子がドラフトにかかるっていうのは嬉しかったですね。担当していた選手で1人も取れないかも、と思っていたんです。担当の中でも1番評価していた岩井投手を指名できたので良かったです。しかも2位。『なかなかないこと』って言われたので凄く嬉しかったです」

 古澤アマスカウトの担当地区は東海地方と滋賀県、福井県。岩井のほか、ヤクルト2位・松本健吾投手(トヨタ自動車)や巨人2位・森田駿哉投手(Honda鈴鹿)、DeNA2位・松本凌人投手(名城大)、オリックス3位・東松快征投手(享栄高)らも担当選手だった。数多くの上位候補がいる中で、古澤スカウトが「1番上でした」と、最も評価していたのが岩井だった。

 初めて迎えたドラフト当日は胸の高鳴りが抑えられなかった。「すごく楽しみな気持ちがありました。それまではすごく大変というか、キツかったんですけど、いざ迎えてみると、自分の時と違って楽しみでしたね。自分のときは不安でした。『お願いします』『頼む』みたいな。今年は自分が見てきた選手がどこの球団に行くんだろうなって」。運命の会議を固唾を飲んで見守った。

 ホークスは1巡目指名で前田悠伍投手(大阪桐蔭)の交渉権を確定させた。2巡目以降はウエーバー形式で進む。1球団、1球団と指名が進んでいく中で、岩井の名前は出てこない。ホークスの前のDeNAに指名順が回ってきたところで、古澤スカウトは岩井を指名できると確信したという。「ベイスターズさんは岩井よりも(同じ名城大の)松本投手の方が評価が高いと聞いていたので」。事前の情報通りにDeNAは岩井の同級生を指名。ホークスは狙い通りに岩井を指名できた。

 最速156キロを誇る岩井は、ストレートの回転数が2780回転をマークすることでも注目を集めた。ただ、古澤スカウトが最も評価するのは、別のポイントにあるという。「僕が一番好きなのはスラーブです」。岩井が得意とする変化球の1つであるスラーブ。大きな曲がり幅に特徴があるという。

「右バッターが腰を引くような反応をしたボールが外角のボールに外れるくらいの感じ。そのボールを器用に扱えるんです。それなりにコントロールできて、曲がるので意外と使いやすい。スラーブが1番いいかな、と思っています。フォークも斜めに落ちるような、特徴的な落ち方をしますし、変化球が1番いいところだと思います」

 大きな変化量だけでなく、調子の良し悪しに関わらず、コントロールできるところが魅力だという。しかも、カウントを整える状況、三振を奪いにいく状況で、スラーブやフォークの変化を投げ分けることもできる、器用な投手なのだという。

 2780回転をマークするというストレートはどうか。回転数の数値だけを聞くと、浮き上がるような軌道を描き、空振りを取れる球質だと思われがちだが、実際の岩井の球質はそれとは異なる。真っ直ぐの“ノビ”は回転数だけでなく回転軸や回転効率も相まって生まれるもの。岩井の直球は回転軸がやや傾くために“ホップ成分”は少ない。

「ストレートは速いんですが、空振りを取れるタイプのストレートじゃないんです。回転軸が斜めなので、ジャイロ成分が多いので、伸びるようなストレートではなく“真っシュー”で押し込んでいくボール。インコースに食い込んでくるので、右バッターにとっては厄介です」

 ホークスはこのオフ、高橋礼投手と泉圭輔投手を巨人との交換トレードに出し、森唯斗投手や椎野新投手、古川侑利投手ら戦力外にした。1軍実績のある投手を大胆に放出したのは、岩井らドラフトで指名した選手への期待値の高さも一因でもある。新人スカウトの古澤スカウトが初めて“惚れた”選手、岩井俊介。来季を見据える上で、楽しみな存在となりそうだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)