「自分よりいいアンダースローはいない」 苦境でも失わなかった自信…高橋礼が信じ続けたもの

ソフトバンク・高橋礼【写真:竹村岳】
ソフトバンク・高橋礼【写真:竹村岳】

泉圭輔とともにトレードで巨人に移籍「すごくプラスなことだと捉えて」

 ソフトバンクは6日、高橋礼投手と泉圭輔投手が交換トレードで巨人に移籍することを発表した。巨人からはアダム・ウォーカー外野手が加入する。高橋礼は移籍について「すごくプラスなことだと捉えて、いろんな可能性を感じています」と、何かを決意したような表情で受け止めていた。どれだけ苦境だとしても、信じ続けた自分の可能性。「自分よりいいアンダースローは日本にいないと思っている」――。

 今季は開幕ローテーションを掴んだものの、5試合登板に終わった。0勝2敗、防御率は10.80。「ここ3年間は、結果が出ずに貢献できていなかった」と、悔いを語る。新天地は生まれ育った関東の球団となり、心機一転を図る。「伝統のあるチーム。ルールとかもキッチリしている」と巨人の印象を語った。ホークスの6年間で得たものは、必ず2024年以降も生きていく。

 2021年は11試合、2022年は4試合の登板に終わった。2020年の春に痛めた左太ももにはじまり、相次いだ怪我の影響でフォームは少しずつ狂っていった。「全部は左のハムから始まりましたね」。唯一無二の変則的なフォームは、繊細な感覚が求められるだけに、微妙な変化でもボールに大きな影響を与えてしまう。「フォームを崩して、スピードが出なくなった」ともどかしい日々は続いた。

 フォーム修正という暗中模索の道のり。西武の與座が昨季に10勝を挙げたものの、球界全体で活躍するアンダースローの投手も減少している。近年は投手の平均球速も上昇し、打者を「圧倒」するのがトレンドになりつつあった。自分自身も2年という長い年月苦しんだが、「アンダースローは限界」だと思うことはなかった。中学2年生から始めた自身最大の武器の可能性を「疑う余地は全くなかったです」とキッパリ言うのも、自信があるからだ。

「アンダースローでプロに入って、フォームの研究もめちゃくちゃしてきた。自分はアンダースローでバッターを打ち取ることができる投手だと思っていました。自分で言うのもおかしいですけど、ポテンシャルは人よりあると思うし、自分よりいいアンダースローは日本にいないと思っているので。自分の調子が悪いから、フォームが悪いから打たれるというだけ。よくなれば抑えられると思っていました」

挨拶のためスーツ姿で球場を訪れたソフトバンク・高橋礼(左)と泉圭輔【写真:米多祐樹】
挨拶のためスーツ姿で球場を訪れたソフトバンク・高橋礼(左)と泉圭輔【写真:米多祐樹】

 昨オフには渡米してトレーニングを重ね、多くのメジャーリーガーも練習拠点にする「ドライブライン・ベースボール」にも足を運んだ。詳細なデータとともに、感覚をすり合わせる日々。自分がたどってきた道は「間違いではなかった」と確信を得た。確かに感じられた効果は「視野が広がったこと。マウンドでの考え方も変わって、少しずつ余裕が出てきました」という。知識はもちろん、自分自身の価値観を米国での経験が変えてくれた。

「マイナーリーガーとかもたくさん見てきた。『今日を一生懸命にやれない人に明日はない』というか。明日のことを考えて、今日を過ごす人は、今日を一生懸命過ごしている人には勝てないって考えがあったので。そういうところに感銘は受けました。どうやったら球が速くなるとか、フォームが良くなるとか、その研究は自分がしたいからしている。楽しいからしているところがあるので、よりそこに熱が入るようになりました」

 野球の人口も、日本とは桁違い。メジャーの舞台を目指しながらも、まだ日の目を浴びていない選手の姿勢は刺激でしかなかった。「年も僕に近くて、とんでもないボールを投げる選手もいた」。“打たせて取る”と思われがちなアンダースローの印象だが「僕は日本の軟投派のアンダースローよりも、アメリカで145キロを当たり前に投げるアンダースローの方が興味あるので」。自分が目指したい投手像が、米国にいた期間でさらに明確になった。

「世界は本当に広い。それでメジャーの一流のバッターを抑えている投手もいっぱいいるので、いつかは自分もそうなりたい」

 当然、ここまで自分と向き合い続けることができたのも、支えてくれるファンの存在があったから。「新人王を獲ったときも、調子が悪くて2軍通いが続いた時も、本当に変わらない声援というのをたくさんいただきましたし、気持ちも折れずに、プロ野球選手って幸せだなと思いながらやれました」。感謝の気持ちを忘れることなく、もう1度、マウンドで輝く。

(竹村岳 / Gaku Takemura)