甲斐拓也は「まだ上がある」 これから必ず出る“味”…川島慶三コーチが語る後輩たち

楽天・川島慶三2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】
楽天・川島慶三2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】

全3回のインタビュー第3弾…最後に「後輩にどんなホークスを作ってほしいですか」

 鷹フルは、楽天の川島慶三2軍打撃コーチを単独でインタビューしました。全3回のうち、今回の第3弾のテーマは「後輩選手について」。試合中に涙を流した周東佑京内野手に、川島コーチが励ます中でかけた言葉は「1人で帰って泣け」。世代交代の途中にいるホークス。甲斐拓也捕手や中村晃外野手ら後輩に送ったメッセージ、そして「大切にしないといけない」ものに迫ります。

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 ホークスは2023年、71勝69敗3分けのリーグ3位。クライマックスシリーズでもファーストステージで敗退し、今はオフシーズンを過ごしている。ホークスでの在籍8シーズンで6度の日本一に貢献した川島コーチ。自身にとっては指導者1年目だった中で、自分なりにその戦いは見守っていた。「なんて言うんですかね」と言葉を選びながら、印象を明かしてくれた。

「上手くいかなかった中で、多分彼らはもっともっとできると思ってシーズンを戦っていたと思いますから。その経験を無駄にせずに、次の日、明日につなげればいい。この順位が、彼らは納得していないかもしれないですけど、また来年に向けて優勝を目指していけばいいこと。この1年間、今の戦いはプラスに絶対になってくると思うから。下を向かず、前を向いてしっかりと。やってくれていると思うんですけどね」

 巨人の松田宣浩内野手が現役を引退した。ホークスで17年間を過ごした、川島コーチと同級生でもある松田は、柳田悠岐外野手、中村晃外野手、今宮健太内野手の名前を挙げて、次代のチームを託した。川島コーチも3人への期待には同調しつつ「僕はいつも言うんですけど、甲斐拓也です」。表情を引き締めると、少し厳しい言葉で、愛情たっぷりのエールを送った。

「甲斐がもっともっとできることがあると思うので。それは彼にも言っていますけどね。僕の口からも『まだ上がある』ということは。野球人としてというよりも、人間、選手を包み込むようなしっかりとしたキャッチャーになってほしいというのは、常に言っています」

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

 甲斐にとっては今季が13年目で、139試合に出場して打率.202、10本塁打、44打点。個人成績よりも、チームの勝敗を担う捕手として、3位という結果が何よりも悔しいだろう。甲斐が1軍の試合に出始めた時から、常に背中を叩いていたのが川島コーチ。甲斐が下を向けば、何度だって向き合ってきた。「ずっとやっていましたね。あいつ、たくさん泣かせてきました。『慶三さん、もうええって』って、彼が僕に言うくらい」と笑顔で話す。

 もちろん、リスペクトするからこその厳しい言葉。違うユニホームを着ている今も連絡を取り合うといい「今も電話もしますし、もっとしっかりしろとか言う仲ですから」と明かす。川島コーチ自身も、試合中の的確な声かけや、打席の中の読みなど、経験値といぶし銀のプレースタイルで存在感を示してきた。「だから彼(甲斐)は、これから味が出てくると思いますよ」と期待しかない。

 公私で関係性が深かったのが、中村晃だそうだ。寡黙で、背中で引っ張るタイプの選手だが、グラウンドを離れればとてもオシャレ。和田毅投手は「晃はワインを飲むと面白くなってきます」と語っていたが、川島コーチも「晃、仲良いですよ。そうね、ワインが本当に好き。あいつ意外と、なんでも凝り性なんですよ。ハマっちゃうとなんでも続ける」と人柄を表現する。

「晃は、あんまり華やかな人ではないじゃないですか。華やかじゃなくて、でもやることはしっかりとやっているから。一緒に生活をすると彼のことを認めない人はいない。試合になったら絶対に必要な存在じゃないですか。だから、綺麗な花にはならないですけど、花を咲かせるための土、みたいな存在です(笑)。健太(今宮)は華やか、なのかな。でもあいつらがいるからこそ、ギータ(柳田)の打点にもつながったりしますからね」

ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】

 川瀬晃内野手や、周東佑京内野手らは今でも「慶三さんが」と、影響を受けた背中だと話している。「嬉しいですよ。晃(ひかる)だってこないだ記事に、僕の名前を挙げてくれていたじゃないですか。ああいうのを見た時は嬉しいですから。『晃、ありがとう』って言いますけど」とニコニコな笑顔で話す。なかなか“新芽”が出てこられずにいる現状を踏まえ、後輩たちにエールを送った。

「周東、晃(ひかる)、栗原(陵矢外野手)もそうですけどね。出始めの彼らを見ていますから。めちゃくちゃ活躍してほしいですけど、まだまだ。これで(活躍)『してる』って言ったら、絶対にいけないと思うんですよ、彼らは。もちろん代表にも選ばれている人たちですけど、まだまだ、まだまだやれると思うので。やってほしいですね」

 2020年9月12日の西武戦(PayPayドーム)で、周東は二塁守備で2失策。悔しさのあまりベンチで涙を流したが、その背中を叩いていたのが川島コーチだった。「結構泣くんですよ、できなかったからって」と、あのシーン以外にも周東の涙は見たことがあるそう。どんな選手だろうと、試合中の涙は大きな反響を呼ぶもの。プロとして最善の準備をしたのなら、悔しさを涙にするのではなく、逆に胸を張るべきだと川島コーチは言う。

「もっともっと志を高く持っておけば、そこで涙を流す必要もないし。まだ次のプレーもあるし、泣いたって何も変わらない。それを抑えられる感情、心のコントロールが必要だということも(周東には)伝えました。『1人で泣け』『1人で帰って泣け』と。そういうのも次につながると思うから。そういうところは伝えてきましたけどね」

ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

 3回にわたって、川島コーチのインタビューを届けてきた。最後に聞いたのは、後輩たちにどんなホークスを作ってほしい、か。3年連続のV逸となり、小久保裕紀新監督を迎え入れ、生まれ変わろうとしているホークス。小久保新監督が「王イズムの継承」を掲げる中、くしくも川島コーチが強調した「大切にしてほしいもの」も、同じ。ホークスの歴史だった。

「僕らがいた時もそうですけど、それ以前におられた方の、ダイエーからのチームカラーというか、いいところっていうのをもう1回振り返ってほしいですね。僕らだけじゃなくて、その前の人たちがどういうことをしてきたのか。僕らもそうでした。僕は他所から来ましたけど、松田に『前の人たちはどんな感じでホークスを作ってきたのか』っていうのを聞きましたし。それを聞いた時に、そこは大切にしないといけないなっていうのは思いましたし、それは自分たちで気づかないといけないと思うから」

「もっと大切にするものが見えてくると、今の彼らにもプラスになるかなって思う。もちろん声を出せとか、そんな簡単なことは言えますけど、もっと大切なことがあると思うから。野球を引いた目でも見て、ユニホームを脱いだ時にハッて気づかないように。今を大切にして行動してほしいですね」

楽天・川島慶三2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】
楽天・川島慶三2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】

(竹村岳 / Gaku Takemura)