起死回生のサヨナラ弾は「全て重なった」 中村晃をラクにさせた主将の“お膳立て”

サヨナラ本塁打を放ち、お立ち台に上がったソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】
サヨナラ本塁打を放ち、お立ち台に上がったソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】

「見ようとし過ぎなかったのが良かった。いきやすい状況でした」

 劇的な幕切れが待っていた。9月30日に本拠地PayPayドームで行われた日本ハム戦。最終回に本拠地を、ホークスファンを、そしてチームメートたちを熱狂させたのは中村晃外野手だった。劇的なサヨナラ弾。「とりあえずホッとした、勝って良かったなっていうのが、一番最初に来たかな」。劣勢をひっくり返す勝利に安堵の表情が浮かんだ。

 1点ビハインドで迎えた9回だ。まず先頭の柳田悠岐外野手が、昨季までチームメートだった田中から右翼ホームランテラス席へソロ本塁打。これで同点に追いつくと、1死走者なしの場面で“レフティスナイパー”に打席が巡ってきた。

「最後はもうすごいリラックスして、状況的にも思い切って行きやすい状況だったんで、シンプルにというか、リラックスして、いいポイントで打てればなと思って。(ボールを)見よう、見ようとし過ぎなかったのが良かった。いきやすい状況でしたし、全て重なってのホームランかなと思います」

 大きかったのは柳田の同点ソロだ。同点に追いつき、自分が仮に凡退して、この回にこれ以上の得点が入らなくとも、延長戦にもつれ込むだけ。何が何でも塁に出なければいけない状況とも違う。冷静に、そして落ち着いて打席に入れた打席だった。

 3ボール1ストライクからの5球目。田中が投じた真っ直ぐを捉えた。「ボール球かな、と思ったんですけど」。確かに見送れば、ボールと言える低め。真芯で捉えると一直線に右翼スタンドへ飛び込んだ。劇的なサヨナラ弾。右手を掲げてダイヤモンドへと駆け出していった。

 苦しみを乗り越えての一打だった。9月16日に体調不良を訴えて「特例2023」で登録を抹消された。39度前後の高熱にうなされ、1軍に復帰したのは1週間後の同23日のオリックス戦だった。復帰してからも19打席ノーヒット。「1本も打ってなかったんでなんとかしたいと思っていました」。ようやく出た復帰後初安打がサヨナラ弾だった。

 9月6日にも体調不良で「特例2023」により、1日だけだが戦列を離れた。勝負の終盤戦で2度も戦列を離れたことに忸怩たる思いを抱く。「全試合出るっていうのは一番の目標。それが怪我とかじゃなくて、自分の自己管理というか、そういうので離脱してしまったんで、それは本当に情けないなと。ただ、もう終わってしまったんで、それを取り返せるようにやっていくだけかなと思います」。悔いる思いを必死にワンプレーワンプレーに乗せている。
 
 3年ぶりのリーグ優勝を逃しても、まだまだクライマックスシリーズ進出を争う熾烈な戦いの渦中にいる。どんな状況であれ、選手の試合に勝ちたい気持ちは変わらず「それはずっと一緒。負けていい試合は1試合もないので。CS争いをしている状況なので、そういうプレッシャーも感じながらまだできるんで、そこは幸せに感じてできています」と言う。

 目指すは地元のホークスファンのために、本拠地でクライマックスシリーズ・ファーストステージを戦える2位を死守すること。「福岡のファンの皆さんも待ってますんで、それはもう絶対みんな目指しているところ。残り試合を全部勝って、2位で終われるようにっていうのが今の目標です」。チームの思いを代弁した中村晃。頼もしい男に当たりが戻ってきた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)