長い“付き合い”だからこそ、燃ゆる思いも知っている。ソフトバンクは29日、西武戦(PayPayドーム)に1-0で勝利した。先発した有原航平投手が8回2安打無失点の好投で10勝目。137試合目でようやく、チームから2桁勝利投手が生まれた。有原とお立ち台に上がったのは、日本ハム時代のチームメートでもある近藤健介外野手。近藤だから知る有原の熱い一面を明かした。
立ち上がりから安定感抜群だった。4回を終えて無安打。5回無死ではマキノンに左翼線二塁打を許したが、ここから踏ん張った。「ランナーを進めずというか、1人1人に向かっていく気持ちでした。結果、三振ではなかったですけど、全員三振くらいの気持ちで行ったのが結果につながりました」。鈴木、岸、古賀と打ち取り先制点を許さない。8回116球を投げ切り、貴重な1勝をもたらした。
前回登板は21日のロッテ戦(PayPayドーム)。7回2死一、三塁で荻野を空振り三振に斬ると、腹の底から雄叫びをあげた。そしてもう1度、右拳を振り下ろしながら吠えた。普段はクールな右腕が見せた、熱い感情。「ピンチでしたし、絶対に三振を取りたいと思っていた。自然と出たというか、そういう気持ちが入る場面だった。苦しい場面を切り抜けられたので」と本人は振り返っていた。
現役時代、2度の沢村賞に輝いた斉藤和巳投手コーチも驚いたと振り返る。この日の内容も「アリに助けてもらった。(内容の良さは)結果が物語ってるね」と絶賛した。後輩選手が「声をかけられない」と言うほど練習中からピリピリした空気を放ち、マウンドでは鬼気迫る表情で打者と対峙していた同コーチは、有原が見せたガッツポーズをベンチからどう見ていたのか。
「もともと持っているものでしょう。ああいう感じの投手ってイメージがなかったので。でもコンちゃん(近藤)に聞くと『けっこうありますよ、(日本)ハム時代から』って言っていた。周りのイメージがないだけで。彼の中では普通のスタンスだったんじゃないですか」
2014年ドラフト1位でプロ入りした有原と、2011年4位だった近藤。日本ハム時代の同僚だった近藤にとっては、何度も見たことのある光景だったようだ。21日のロッテ戦(PayPayドーム)でも23号3ランを放ち、この日も有原とともにお立ち台に上がっていた。右腕の熱い一面を、こう語る。
「なかなか自分の気持ちを表に出すタイプではないと思いますけど、ゲームになるとそういうところはハム時代から見ていました。(熱い一面もある? と問われ)そうだと思います」
この日、8回2死一塁で迎えたのは代打の中村。3ボールとなったが「打ってくると思って思い切り投げた。コースを狙いましたけど、とにかく力強い球を投げようと思った」と油断することはなかった。結果は一飛。中村晃がガッチリ捕球したのを見ても表情は変わらず、淡々とベンチに戻っていた。「前回はちょっと特別だっただけで、今日はいつも通りというか、自分の投球ができた」と照れ笑いで語る。
有原が「いつもバッティングも守備も助けてもらっていたので、引き続きお世話になっているというか。助けてもらっています」と感謝すれば、近藤も「援護できてよかったです」と会心の一撃を振り返った。近藤はリーグトップタイの25発だが、有原の登板日だけで6発を放っている。「いつも球数少なく投げてくれている。テンポがいいので、リズム良く打席に立てている」と自分なりに分析する要因だ。
前回のロッテ戦で見せた感情を「特別」と表現し、残り7試合で迎えたこの一戦。クライマックスシリーズ進出に向けて、1試合も落とせない中でまたしても快投を披露した。「チームにとって、大事な1勝を取れたので。(自分の)10勝よりも、そっちの方が嬉しいです」。そう語る表情は、いつもの冷静な有原だった。