時にはストレートな言葉で選手に苦言も 小久保2軍監督が貫いた「凡事徹底」と「人間教育」

ウイニングボールを手に笑顔を見せるソフトバンク・小久保裕紀2軍監督【写真:上杉あずさ】
ウイニングボールを手に笑顔を見せるソフトバンク・小久保裕紀2軍監督【写真:上杉あずさ】

1軍から来た選手にも徹底させたウォーミングアップでの決まり事

 万感の思いで、筑後の夜空を3度舞った。ソフトバンクの2軍は29日、ファーム本拠地のタマスタ筑後で行われたウエスタン・リーグの中日戦に6-5で競り勝ち、3年ぶり14度目の優勝を決めた。小久保裕紀2軍監督は就任2年目で初めて頂点に立ち、選手たちの手で3度、胴上げされた。

 1点を追う初回に3つの四球で満塁のチャンスを作ると、ルーキーの吉田賢吾捕手の適時打で同点に。さらに海野隆司捕手、笹川吉康外野手、川原田純平内野手にも適時打が出て、この回一気に5点を奪った。先発のジョー・ガンケル投手が踏ん張れずに同点に追いつかれたものの、8回に海野の左前安打、笹川、西尾歩真内野手の連続四球で2死満塁のチャンスを作ると、水谷瞬外野手が勝ち越しの押し出し四球を選んで、これが決勝点となった。

 小久保2軍監督は2012年に現役を引退すると、野球日本代表「侍ジャパン」の監督を務めた。2021年に1軍のヘッドコーチとして9年ぶりにホークスに復帰したが、その年の結果は4位。現役を引退した時とは、様変わりした現代野球。2軍監督として若鷹たちと一緒に汗を流すことが、指揮官にとってリスタートとなった。

 現役時代に通算2041安打、413本塁打を記録。ミスターホークスとして常に1軍のグラウンドに立ち、王貞治球団会長からも「若手の手本になれ」と言われ続けて後輩に背中を見せてきた。2軍監督となって感じた最初の課題は“Z世代との付き合い方”。圧倒的な練習量を意地と根性でこなしてきた自分とは重ならない“現代っ子”を理解するために、目線を下げていくことから始まった。

 2022年2月、2軍監督となって初の春季キャンプ。選手に伝えたのは“人として”当然のことばかりだった。脱いだスリッパは揃える、飲んだペットボトルは捨てる、使った道具は片付ける……。「1度、カミナリを落としました。他球団の2軍監督と連絡を取っても、課題らしいです」。とにかく「凡事徹底」と「人間教育」こそが小久保2軍監督のチーム作り、人間育成だった。

「普通に考えて、これだけの人間が共同生活しているわけじゃないですか。やっぱり同じ洗面を使うのもトイレを使うのも、そりゃあ綺麗に使いたい。これだけの人数が自分のシャンプーとかリンスとか、そのまま浴室に置いていたらスペースはなくなるわ、汚いわ、当たり前のことですよね。だから寮が公共の場だという認識を植え付けていかないといけない」

 チームとして大切にしたのも、ウォーミングアップという基本的なことだった。ダッシュ1本にしても最後まで手を抜かずに駆け抜ける。「2軍にいる子がフライングをしたり、コーンの手前で緩めたり……。微差は大差という話は選手にもした。小さいことの積み重ねが大差につながる」。1軍から降りてきた選手にもこの方針は事前に伝えた。徹底してルールを守らせることも、指揮官なりの野球だった。

 6月には4年目の海野にキッパリと言った。「もっと危機感を持たないと」。時には“5番手捕手”とストレートな表現で現状を突きつけた。又吉克樹投手が自身のスタイルについて考えが揺れ、相談された時も「やっていいんじゃないか」。球威を求めるために、やりたいようにやりなさいと背中を押した。選手の現状や立場を冷静に理解して、真っ直ぐな言葉で伝える。指揮官なりに厳しさを使い分けた愛情は、しっかりと選手に届いていた。

「首位攻防戦」と位置付け、1.5ゲーム差で迎えた8月18日からのオリックス3連戦(タマスタ筑後)。初戦に9回2死から笹川のサヨナラ弾で勝利すると、そのまま3連勝で首位に浮上。同18日以降は17勝9敗2分けと、ラストスパートを見せた。残り15試合で迎えた9月12日の阪神戦(鳴尾浜)。球場に到着すると試合前のミーティングで、初めて「優勝」という言葉を使って選手を鼓舞した。

「ここまで来たら、優勝しようか」

 指揮官からのこれ以上ない言葉。選手からは「オオシ!」と次々に野太い声が上がり、ボルテージは上がった。結果的に12日からの阪神戦では3連敗を喫したが、優勝の重圧に選手が直面した時にどんな姿を見せるのか、指揮官も注目していた。「監督が初めて口に出して『いくぞ』って言った方が、プレッシャーがかかった打席、マウンドに送らせることができる。優勝できるかもしれないという今の位置を、有効利用させてもらおう」。いつかは1軍で経験しなければならない重圧。全てが選手の将来を思っての決断だった。

 10月7日、宮崎のひなたサンマリンスタジアムでファーム選手権を戦う。指揮官が現役時代、最後に日本一を味わったのは2011年。自身にとっても、12年ぶりの日本一へ――。限りない可能性が、若鷹たちを待っている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)