【連載・和田毅】自主トレお願いに「本当に来れんの?」 押し切られた田浦文丸の覚悟

ソフトバンク・和田毅(左)、田浦文丸【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・和田毅(左)、田浦文丸【写真:荒川祐史】

昨年末は左肩痛でリハビリ組も、受け取った悲壮な決意「昔見た田浦じゃない」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、新しく和田毅投手に登場していただきました。9月の中編、テーマは「成長を感じる後輩」です。和田投手が名前を挙げたのは、自主トレも共にした田浦文丸投手。今季キャリアハイの44試合登板を果たしている6年目左腕に和田投手は「昔見た田浦じゃない」。その言葉の真意とは? 昨オフに自主トレをお願いされた時には、実はドタバタの舞台裏があったそうです。

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 田浦は今季、開幕1軍を掴み取り44試合に登板。2勝1敗、7ホールド、防御率2.45の成績を残している。開幕以降は15試合連続で無失点と自分の居場所を築くと、5月、6月は月間防御率1点台と少しずつブルペンの柱となっていった。9月9日に登録抹消となったものの、19日には再登録。和田も、その頑張りに目を細めている。

「ちょっとここ最近がね。前半すごく良かっただけに、すごい投げて、こんなに投げたのは、プロに入ってから初めてだと思いますし。でも本当これがプロというか、たくさん投げたり準備したり今までにない疲労だとか、そういうのでパフォーマンスが落ちてるのは多分、本人も自覚していると思いますし、当然悔しさもあると思うので」

「これがプロの世界ですし、その中で嘉弥真(新也投手)は6年も50試合以上投げて、結果を残してきた投手が先輩にいる。その前には吉田修二さん、篠原(貴行)さんとか数々の先輩方が、そういうのをされてきてるわけなので。田浦もよく頑張ったと思うんですけど、そこを乗り越えていかないといけない部分は、少なからずあると思うので、こう(9日に抹消)なってしまったことを彼がどう考えるか。また楽しみだなっていう思います」

 和田は1年目から5年連続で2桁勝利。早大4年時から「1年間回るイメージで、トレーニングやランニングをしていた」とプロ入りを想定して準備していたという。それでも「8月の終わりぐらいからやっぱりすごくしんどくて、3試合連続ぐらいでノックアウトを食らったんですかね。1回抹消になりました」と苦い経験を振り返る。ローテーションで回る感覚を掴むのも「2年くらいかかった」。何度も壁にぶち当たったから今がある。田浦もその途中にいるのだ。

 昨オフに、田浦からお願いされて自主トレをともにした。その舞台裏は“ギリギリ”だったという。「年末にいきなり電話が来たんです」。当時の田浦は左肩を痛めて、リハビリ組。経過をしっかりと確認しなければ管轄を“卒業”できないだけに「本当に『来れんの?』みたいな感じ。『リハビリじゃないの?』みたいなところからスタートしたので。『年明けに投げて、問題なければ、リハビリを卒業できるんで』『じゃあいいけど…』って」と和田も振り返る。

 自主トレを行うにはホテルの予約や、事前にクールごとのメニューを考えておく必要がある。「田浦の準備は当然ですけど、できていなくて。Tシャツとかもなかったので、キャップだけあげました」。田浦は2017年の入団会見で「走るのが苦手」と言ったほど。厳しいメニューで知られる和田の自主トレに志願してきたことに「そこまでそんなに話したことなかったんですけど、自分のところにリハビリ明けに来るっていうのも、なかなかのチャレンジャー」と、心意気を買った。

 田浦は2022年は4試合登板に終わり、5年目を終えた時点では通算31試合登板。「もうそろそろやばいだろう、結果を残さないといけないっていう、本人の気持ちがあったと思います。それはうちに来る、来ないは別としてね、何か変えたいってのはあったと思うんで」と和田も察する。お願いこそ“ギリギリ”ではあったが「僕は自分から『お願いします』っていうのは拒むことはしませんし、1人のプロの選手として扱いたい」と悲壮な覚悟をしっかりと受け取っていた。

 参加したのは第2クールからだったという。それでも「すごく貪欲に聞きに来てくれましたし、練習も『絶対ついてこれんだろうな』と思いましたけど、すごい根性を出して一生懸命走ってましたし、トレーニングもしてました」と田浦の取り組みを代弁する。リハビリ明けでも同様のメニューを課したようで「優劣なんて実際つけてないですし、それはもう実績関係なし。本当に一生懸命やってましたし、とても、『昔見た田浦じゃねえな』と思いました」と和田も唸るほどだった。

「田浦は実質、今年が1年目でもありますし、昨年の本人からすれば、こんな(1軍で投げる)経験はなかったと思うので、本人にとってはプラスになったと思うし、変えないといけないというか、もっと成長していかないといけない部分が見えたと思う。やっぱり来年が大事、来年再来年はもっと大事になるんじゃないかなと思います」

 自主トレをともにした“門下生”は、確実に成長を遂げている。その筆頭は現役ドラフトで阪神に移籍した大竹耕太郎投手だろう。ここまで11勝を挙げて、18年ぶりのリーグ優勝に貢献した。チーム内でも板東湧梧投手がキャリアハイの5勝。藤井皓哉投手は先発と中継ぎの両輪を今シーズンはこなし、笠谷俊介投手も登板数は少ないものの防御率1.08でファームでも圧倒的な数字を残している。そんな後輩の活躍を見て、謙遜しながら和田は言う。

「もともとみんな力あるんですよ。力がある中で、何かきっかけをつかみたいと思って、自分のところに来てくれて、何かしら掴んでくれたのかはわかんないですけど。別に何も僕は教えてないですし、ただ単に本人が何かを掴んでやってるだけなんで。もうそれはやっぱり、嬉しいですよね。気にはなりますし」

 和田の実績、経験、そして何より人柄を尊敬して集まってくる若き才能。後輩の未来を思い、話す目尻は優しく下がっていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)