球威か制球か…32歳で迎えた“転機” 又吉克樹が小久保2軍監督に助言を求めた背景

ソフトバンク・又吉克樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・又吉克樹【写真:竹村岳】

8月は10試合で防御率0.87…小久保2軍監督は「遠くに飛ばすことを諦めなかった」

 ソフトバンクの又吉克樹投手はここまで24試合に登板して1勝1敗7ホールド、防御率1.69と安定した数字を残している。活躍を支えているのが、取り戻しつつある球威だ。ホークス2年目にして初めて150キロを計測するなど、32歳にして再び“進化”をしようとしている。背景にあるのが、ファームでの時間。小久保裕紀2軍監督から言われた言葉だった。

 移籍後、最速を計測した。3日の西武戦(ベルーナドーム)、1点をリードした6回2死一、三塁から登板。外崎を150キロの直球で一邪飛に斬り、火消しに成功した。8月は10試合に登板して防御率0.87の安定感を誇り、9月も7試合で無失点だ。1軍で欠かせない存在になるまでに、アドバイスを求めた人物が小久保2軍監督だった。

 今季の又吉は開幕1軍を掴んだものの、4月22日に登録抹消。球威が足りていないことは本人が一番わかっていた。再調整は3か月以上を要し、ウエスタン・リーグでは27試合に登板。1勝2敗2セーブ、防御率2.52の成績を残す中での手応えとは、どんなものだったのか。

 降格して1か月が経っても、又吉は復調の気配を掴めずにいたという。中日時代の自己最速は152キロ。今年の11月で33歳となる右腕は、キャリアを考えても、“転機”のド真ん中にいた。「スピードをどうしても戻さないといけない」と頭ではわかっていても、形にならない。そんな中で、自ら小久保2軍監督のもとへ足を運んだ。タマスタ筑後のグラウンド。練習の前に、2人だけで言葉を交わした。

「コントロールをさらに磨くのか、もう一度スピードを追い求めるのかというところで。小久保さんはバッターですけど『ホームランが減ってきた時にどんなメンタリティでトレーニングしていましたか?』と聞いたら、小久保さんは『遠くに飛ばすことは諦めなかった』と。『お前もそれをやっていいんじゃないか。それに特化したトレーニングをしたらいいんじゃないか? コーチと話してみたら?』と言われました」

 現役時代に通算2041安打、413本塁打を放ったホークスのレジェンド。実績は首脳陣の中でも突き抜けているとはいえ、ホームランバッターとリリーフ投手。打者だった指揮官にアドバイスを求めた意図も「投手のスピードが出なくなるのは、仕方ないところもある。でもバッターが飛ばせなくなるというのは相当ショックだと思うんです。(スタンドに)入っていたものが入らなくなるから。投手はその点では、ごまかせるので。コントロールでストライクも取れるし」と語る。

 自分が悩んでいることは、きっと小久保2軍監督も通った道。そう思って助言を求めたわけだ。「自分とのギャップが絶対にあるわけじゃないですか。小久保さんはどういうふうに埋めたんだろうって思って」。実際に指揮官の現役時代の通算成績も下調べしてから足を運んだというのだから、実直さが伝わってくる。球威を求めるためにやりたいようにやらせてもらえたことには、又吉も感謝しかない。

「『お前はそこ(スピード)じゃないんじゃないか』って言われたら終わりですし。持っているプラスアルファ、スピードを追い求めるなら全然ありだと言われたので。それはすごく感謝しています。気持ちとしてもすごく楽になりました」

 ファームを預かる立場として選手と向き合う中で、思ったことはハッキリと言う小久保2軍監督。又吉も思い悩んでいたからこそ、現状をハッキリと突きつけてくれる言葉が欲しかった。

「『絶対ダメ』とか『使えない』とかハッキリ言う人じゃないですか。現実主義というか、特に若い子には。そういうことはなかなか言えないと思うんですけど、伝えられる厳しさがある。僕のギャップのことを相談しやすかったのも『無理なんじゃねえか』ってハッキリ言われたら、コントロールに特化しようと思っていたので。すごくいい言葉をもらいました」

 最大の持ち味はコントロール。だからこそ、自分を見失うことはない。「150キロなら、アウトローの構えたところに投げられる150キロじゃないと、僕はいらないです」。ハッキリと語る又吉の表情に、迷いはない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)