2回途中KOで球団広報が見せた“気遣い” 試合中に板東湧梧の降板コメントがなかった背景

ソフトバンク・板東湧梧(左端)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・板東湧梧(左端)【写真:竹村岳】

いつもなら試合中に送られてくる先発投手のコメント…この日は送られてこなかった

 結果で表現はできなかったが、この試合にかける思いがあった。ソフトバンクは10日、楽天戦(PayPayドーム)に4-6で敗れた。先発の板東湧梧投手が1回1/3を投げ4失点と試合を作ることができず、4敗目を喫した。通常なら試合中に送られてくる広報を通じたコメントも、この日は送られてこなかった。板東の降板後の姿勢、そして球団広報が見せた“気遣い”に迫った。

 初回、先頭の小深田の打球を遊撃の今宮健太内野手が弾いてしまい、出塁を許す(記録は失策)。結果的に2安打3四球と立ち上がりを攻め立てられ、3点を失った。2回も先頭の小深田の打球を二塁の三森大貴内野手が処理できず(記録は内野安打)。ピンチが広がって浅村に適時打を浴びたところで、ベンチは2番手の武田翔太投手にスイッチした。

 試合後、藤本博史監督も「悪かったね。いつもより真っ直ぐも4、5キロ遅かった」と板東の状態を分析。打線が3回に4点を奪って1点差に詰め寄っただけに、序盤の失点が重くのしかかった。守備の乱れも含めて「今日はミスが多い試合やったね。走塁、バント失敗もそうやし。誰にでもミスはあるわけですから」と結果も内容も受け止めていた。

 いつもなら、降板後に先発投手のコメントは球団広報を通じて報道陣に送られてくる。この日の板東は降板後、ベンチの最前列で立って応援をしていた。リリーフ陣が抑えればハイタッチに加わり、攻撃中も野手と並び立ちグラウンドを見つめる。投手陣の広報コメントを担当している柳瀬明宏打撃投手兼広報は「すぐにベンチに戻ったんですよ」と舞台裏を語る。

「聞くタイミングがなかったのもあるんですけど。ああいう時にコメントを出すことで、彼の本意じゃないところが伝わるのも嫌だな、って。聞くことがあるなら(試合後に取材陣に)聞いてもらって、それが記事になる方がいいかなと。どっちにしても、なかなかコメントも難しかったと思うし、それなら聞かれたことに答えてもらった方が伝わるかなと思って」

 接戦で敗れたのならまだしも、序盤から試合を作ることができなかった明らかな“ノックアウト”。本人の言葉とはいえ、広報を通じたコメントがSNSやインターネット上で、意図しない形で広がることを柳瀬広報なりに懸念。取材は試合後に応じてもらい、本人の口から出ていく発言の方が、このケースはベターだと判断したわけだ。他の投手も含め「(過去に)あったかもしれないですけど、数は多くないです」と、似たような状況や判断は何度かあったそうだ。

 広報がベンチ入りするにも登録が必要であり、この日に登録されていたのは西田哲朗広報だった。柳瀬広報が選手からコメントを取るには、アイシングなどでベンチ裏に引き上げてくるタイミングを狙うしかないが、板東は終始、最前に立って応援していた。板東が感じているだろう不甲斐なさも含め、戦況を見つめている右腕の心境を、柳瀬広報なりにリスペクトしたのだった。

 さらに柳瀬広報は「この試合にかけていたのは、僕には伝わっていた」とも言う。板東は2日の西武戦(ベルーナドーム)で5勝目を挙げたが「勝ち投手になっても悔しそうな表情をしていた」と言う。現役時代に救援として通算218試合に登板した柳瀬広報。「特に最近になって、そういうものを僕はあいつから感じていた。悔しさも責任も感じていたと思うので、自分から(コメントを取りに)は行けなかったです」。投手出身だからこそ、この日だけは板東の気持ちを最優先したかった。

 板東本人は試合後に「何から言ったらいいのかわからないですけど……。自分でもあまり整理できていないです。制球ができていなかったのが一番、こういう結果になったのかなと思います」と結果を受け止めた。ベンチの前でナインを必死に応援していたことにも「それしかできないですから」と言う。結果が全ての終盤戦ではあるが、この悔しい敗戦を、板東ならきっと糧に変えていける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)