なぜ甲斐野央がお立ち台に? 本人も疑問だった人選の黒幕と“お蔵入り”になった今宮健太のイジり

ソフトバンク・甲斐野央(中央)【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐野央(中央)【写真:荒川祐史】

大トリでのヒーローインタビュー「甲斐野はそれくらいの存在なんです」

 愛とユーモアの溢れたお立ち台だった。ソフトバンクは9日、本拠地・PayPayドームで行われた楽天戦に7-2で逆転勝ち。試合後のヒーローインタビューに選ばれたのは同点の2点適時打を放った今宮健太内野手、勝ち越しの一打を放った柳町達外野手、そして今季2勝目をマークした甲斐野央投手だった。

 2点を追いかける劣勢だった。7回にマウンドに上がった甲斐野は先頭の安田に安打を許したものの、後続を切って無失点に抑え、味方の攻撃に繋げた。その裏、柳田悠岐外野手、近藤健介外野手の連打、中村晃外野手の四球でできた無死満塁のチャンスで今宮が田中将から左中間へ同点の一打。続く柳町は一、二塁間を破る決勝打で続き、この回打者一巡の猛攻で5点を奪って試合をひっくり返した。

 ヒーローインタビューの壇上で甲斐野は「ベンチから『なんでお前やねん』と言われ、ファンの方も『なんでお前やねん』と思ってるかもしれないですけど、僕も思ってます」と語り、ファンの笑いを誘っていた。なぜ、今宮、柳町と共に甲斐野もお立ち台に上がることになったのか。発案者は西田哲朗広報。そこに込めた思惑とはどんなものだったのか。

「甲斐野は最近頑張っていますし、2勝目も挙げた。今宮はレギュラーでスター選手なので、試合を決めたところでお立ち台に上がらせたい、というのが本望なんです。本人も同点に追いついた1本としか考えていないかもしれない。ただ、今宮と甲斐野は仲がいいので、仲のいいメンバーで上げてあげたいというのもありました」

「甲斐野は盛り上げてくれますし、今宮も盛り上げないといけないという責任感の強い選手。甲斐野が入ることで今宮と真面目な柳町を引き立ててくれる、甲斐野自身も今宮と上がることで引き立つと思ったのでお願いしました」

 中継ぎ投手はヒーローインタビューに出てくることがなかなかない役割。過酷なポジションであるからこそ、西田広報には「中継ぎを出してあげたい。終盤戦で大変なので」と、スポットライトを当ててあげたい思いもある。ただでさえ、お立ち台に上がる機会は少ない。仲の良い今宮と甲斐野が同時にその機会を得ることは滅多にないからこそ、この日の提案に繋がり、甲斐野自身も「健太さんが一緒なら」と受諾したという。

 インタビューは今宮、柳町と進み、甲斐野は大トリだった。これにも西田広報なりの理由があった。「ヒーローインタビューって最後が一番難しいんです。締めって結構プレッシャーかかるんですよ。最初がいいっていう意見が多いんです。甲斐野やったらやってくれるだろう、甲斐野が締めてくれるってなるとみんな安心してくれる。甲斐野はそれくらいの存在なんです」。絶大な信頼感からトリを託したという。

 甲斐野はしっかりとスタンドの笑いを取り、そしてやや滑りつつも、3人のインタビューを締めくくった。だが、そんな甲斐野には残念だったことがあったという。「健太さんがいじってくれなかった」。望んだ今宮とのお立ち台だったが、話題として甲斐野の名前に触れてくれなかったからだった。

 これを伝え聞いた今宮はこう答えた。「本当は言いたかったんですよ。でも『甲斐野投手の……』っていう質問がなかったから。(聞かれたら)『甲斐野は負けている場面だったら、いいピッチングする。安心して見ていられます』って言いたかった」。質問が出なかったことで“お蔵入り”してしまったが、実は今宮もキッチリと甲斐野をイジるネタを用意していた。

 記念撮影でもいじられるようにセンターに立たされていた甲斐野。「みんなにちょっと滑ってたって言われたんですけど、僕もそう思います。もうちょっと笑いも取れたと思いますけど……。本当なら健太さんと達だけでいいでしょ」。誰からも愛される甲斐野の人柄と、周囲からの信頼と愛が伺い知れた、この日のヒーローインタビューだった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)