【連載・甲斐拓也】自身3度目のノーヒットノーラン達成 石川柊太と考えたプランと裏話

ノーヒットノーラン達成時のソフトバンク・石川柊太(左)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ノーヒットノーラン達成時のソフトバンク・石川柊太(左)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】

「リスクを怖がっていたら、一つ先に進めないような気がした」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、甲斐拓也選手の「9月前編」です。今回のテーマは、8月18日の西武戦(PayPayドーム)で石川柊太投手と達成したノーヒットノーラン。千賀滉大投手(現メッツ)、東浜巨投手に続き、自身3度目となった快挙達成の裏話、捕手目線での思いを明かした。

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 史上88人目のノーヒットノーランは、マスクを被る甲斐にとって自身3度目の快挙達成の瞬間だった。2019年9月6日のロッテ戦での千賀滉大投手(現メッツ)、2022年5月11日の東浜巨投手に続く偉業。「僕が何かをしたわけではないですけど、そこに少しでも関われているっていうのは、やっぱりうれしいですね」。これまでの2度とはまた違う喜びがあった。

 この日まで石川は9試合連続で白星なし。5月19日の西武戦(PayPayドーム)で今季3勝目を挙げて以降、約3か月、勝ちから遠ざかっていた。自身の不振もあって、1軍登録抹消も味わった。マスクを被り、コンビを組んできた甲斐も責任を感じていた。なんとしても勝たせたい。その一心で迎えた一戦だった。

 ただ、石川の調子は決して良くなかった。

「調子が良かったかと言われたら、そうでもなかったですね。なかなか結果がついてきていなかったので、その中でどうしようか、という話をして、僕もどうしようかというのを考えて臨んだ試合でした」

 状態が良くない中で、いかに攻めていくか。石川と甲斐は意見を交わし合い、ゲームプランを組んだ。今後の戦略もあるため、多くは語れないものの、甲斐はそのプランの一端をこう明かす。

「柊太さんの球の性質を活かしてやらないといけないなと思っていた。ある程度のリスクも、もちろんあると思うんですけど、そこを怖がっていたら、1つ先に進めないような気がしたので、怖がらず、お互い腹をくくった。ただ、闇雲にっていうわけじゃなく、柊太さんも腹をくくって投げられるように、こっちの意図をしっかり伝えました」

 この試合では特にカットボールを多めに使った。全投球の3割近くがカットボールで、シュート成分の強い石川の真っ直ぐと合わせて、実に8割近くをこの2球種が占め、そこに効果的にパワーカーブを加えた。内外角にボールを散らして、西武打線にマトを絞らせなかった。

 ノーヒットのまま試合は進んだ。ただ、「ずっと考えていなかったです」と、甲斐に記録への意識は最終盤までなかった。意識してリードしたのは最終回だけ。「9回は何とかはクリアしたいなという思いがあった」。実は9回に入る時には、ある種のノーヒットノーランを達成できそうな予感があった。

「ハマっている時の最後の打席って、ある程度、それまでの打席で保険がかけられている部分があるんです。なので、そういう風なことがしやすいケースがある」

 バッテリーと打者の対戦は、その1打席だけで決まるものではない。前の打席、前の前の打席、何か月も前の対戦……。それまで積み重ねてきた打席の全ての情報を用いて、双方が対策を考える。この日は、相手の西武の打者たちに対して布石を打つことができていたからこそ、そんな感覚が生まれた。

 過去2度との違いもある。初めて達成した千賀の時も、2度目の東浜の時も、どちらも2-0で勝利しており、ゲーム展開は接戦だった。かたや、今回は序盤に大量リードを奪うワンサイドゲーム。最終的には8-0という結果だった。

「千賀と巨さんの場合は2点差で、ひっくり返される可能性のある試合でもあった。(ヒットを)打たれたところで、チームが勝たないと意味がないなっていうのあった。そこは全く違った。柊太さんの場合はやっぱり点差があったんで、何とかノーノーを達成させたいなっていうのがあった」

 捕手として最優先すべきものはチームの勝利。記録達成のために、チームの勝利が覆されるリスクを犯すことはできない。点差が開いていなければ、まず勝つことを考えて捕手はリードするが、仮に何点か取られても大勢に影響が出ない点差であれば、記録を考えたリードもできる。そんな点でも、過去2回とは“味わい”に違いのある快挙達成だった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)