刺激を受けた“グラスラ直前”…後輩が見せた執念 周東佑京の「優しさ」が詰まった瞬間

ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】
ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】

プロ通算12本目で初のグランドスラム「より打ってやろう」と思った瞬間とは

 先輩としての意地が打たせたグランドスラムだった。ソフトバンクは8日の楽天戦(PayPayドーム)に6-8で敗戦した。5回を終えて投手陣が7点を失う展開となった中で、周東佑京内野手が2号満塁本塁打を放った。6回2死満塁から右翼席に運び「インコースの真っ直ぐを狙い通りにスイングすることができ、完璧に捉えることができました」と振り返った。満塁弾につながるきっかけは、打席に入る直前にあったという。

 5点を追いかける6回だった。今宮健太内野手、柳町達外野手の連打でチャンスを広げ、2死一、二塁の場面で代打・生海外野手が一塁への内野安打を放ち満塁とした。周東は、1ボール1ストライクからの3球目、143キロ直球に体重を乗せるように振り切る。打球は放物線を描いて、右翼席に着弾した。敗色ムードが漂っていたドーム内が、一気に活気を取り戻す一撃となった。

 これで通算12本塁打。グランドスラムはプロ初だ。試合には敗れただけに、周東は第一にチームの結果を受け止めていたが、「ああいう場面で出てよかったなと思います。負けはしましたけど、相手にやられっぱなしで終わるよりも、ああいうところで打てたのはよかったです」と、2戦目以降にもつながる一発だったことは間違いない。1.5ゲーム差に迫られた4位の楽天が相手。9日の一戦も、絶対に落とせない。

 周東が触発されたのが、直前の生海の内野安打だったという。「生海があそこで、2アウトの難しいところからつないでくれたので」。1ストライクからルーキーが安打をもぎ取り、チャンスを広げてくれた価値と執念はしっかりと伝わっていた。「なんとか塁に出てくれたので。ああいう“タダ”では終わらないっていうところを見て、より打ってやろうと思いました」。新人が見せた意地に、自然と気持ちは強くなった。

 生海にとっては2死一、二塁から入った打席。代打としての出場だったことも踏まえ「つなぐというよりも、前に飛ばそうと思いました。代打は難しいので、気持ちも入っていました」と狙いを振り返る。一塁走者として見上げた周東の弾道には、「すごいですね。しびれました。『入ったな』って思いました」とスタンドインを確信していたようだ。本塁の前で生還を見送り、力強くハイタッチを交わした。

ソフトバンク・生海【写真:竹村岳】
ソフトバンク・生海【写真:竹村岳】

 自身の姿勢に周東が刺激を受けたことにも、「うれしいですね。頑張って打ったので、先輩が打ってくれてよかったです」とはにかむ。8月29日から1軍に昇格したばかり。身に起こるのは初めてのことばかりだが、周東は気にかけながら声をかけてくれるそうだ。「すごく優しいです。ちょこちょこ話もさせてもらっていて、打席で打てなくても『大丈夫、大丈夫』って」と背中を押されている。姿勢も結果も、先輩として頼もしい限りだ。

 8月は月間打率.063。なかなか数字が上向かない中で取り組み始めたのが、ノーステップ打法だった。足を上げていたのを、まずはすり足にしてみたというが、タイミングの取り方はどんどん小さくなり、ノーステップに今は落ち着いている。「体のブレも頭のブレも、自分の中で大きいなと感じていて。そこをどうにか抑えようと思った」ときっかけを語る。

 助言をくれたのが、長谷川勇也打撃コーチだった。「すり足にした時にハセさんに『今の形でやった方がいいんじゃないか』と言ってもらった」。最良の感覚を模索する中で“無駄”はどんどん省かれていき、「打てている形を先に作る」という、現状での最適解を見つけたようだ。8月は数字が残っていなかったが「結果が出ていないのはありましたけど、打球とか感覚はよかった部分が多かった」と手応えを感じていた。

 長谷川コーチの視点からは「彼から、この方法がいいと選んできた。率を残すとかそういうところじゃなくて、実際に打席に立ってボールの見え方に違和感を感じていたのかな。そうした方がいいと自分からやり出しました」と経緯を語る。正解のない打撃の領域。「ずっとあの形で行くとも思わない。バッティングって変化するので、今の彼にはあれが合っているんだと思います」と、現状を受け止めながら最適解を探す作業はまだ続きそうだ。

 初回には1死三塁から、柳田悠岐外野手の浅い中飛でタッチアップ。本塁に生還して、先制点をもぎ取った。「回も浅かったですし、前回は行けなかったので。今回は行こうと思いました」。“前回”とは7月7日の楽天戦(楽天モバイル)の9回だろう。センターの辰己涼介外野手の肩との勝負に、今回は挑んだ。グランドスラムはもちろん、周東の意地が詰まった一戦だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)