【連載・板東湧梧】「腹減りませんか?」 初対面の記者を自ら食事へ…人の心に飛び込む“才能”

ソフトバンク・板東湧梧【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:荒川祐史】

自称する「人見知り」を克服した社会人時代…「全員が4歳以上、年上で」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、板東湧梧投手の8月後編、テーマは「人柄」です。連載取材を担当する竹村岳記者の目線で、板東投手の人柄を語っていきます。忘れられない初対面。人の心にスッと入ってくる“才能”に、いつも驚かされるばかりです。次回「9月前編」は9月25日(月)に掲載予定です。

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 板東の人柄にあまり触れることのなかったファンの皆さんは、彼に対しどんな印象をお持ちだろうか。もしかしたら「クール」「真面目」というイメージがあるかもしれないが、個人的にはそれよりも「野球少年」だと思っている。今年の1月に自主トレの取材に行った時、板東はウエートトレーニングで鍛え上げた肉体を披露した。その体について自らの口で説明していると、気になる表現があった。「バチバチに鍛えたので」。

 丁寧に表現するなら、「ものすごく」を意味する「バチバチ」。発言の1つも個性であるプロ野球選手。和田毅投手のように慎重に言葉を選ぶ、板東にもそんな印象があったため「バチバチ」という言葉には驚いた。その他にも取材中に、同じく「めっちゃ」を意味する「ごっつ」を使うなど、飾らない姿勢で自分の思いを表現するのも板東の魅力の1つだ。

 板東との“初対面”は、今でもよく覚えている。野球取材7年目の自分にとって、初めてのレアケースだったからだ。それまでにもちろん名刺を手渡し、囲み取材に入って質問したことは何度もあった。しかし、コロナ禍もあって取材が制限されていた影響で、なかなか1対1で取材するチャンスには恵まれなかった。囲み取材での板東のコメントは“優等生”。そこからだけでは、なかなか人柄をつかめずにいた。

 そして、1対1で初めて取材した時のことだ。“サシ”というのは初対面のようなもので、勝手に緊張していたのだが、板東はすぐさま距離を詰めてきてくれた。午前中からスタートした取材と撮影を終えると、「腹減りませんか?」。記者にとって選手との距離の詰め方は永遠のテーマ。選手の方からこんな形で近づいてきてくれるなんて、少なくとも自分にとっては初めてだった。

 午前10時半ごろだったと思うが、周辺の飲食店はまだランチ前の時間で、開店もしていない。店を探した結果、2人でカフェに行くと、板東は“朝ご飯”から、腹いっぱいになるくらいの量を頬張っていた。会話は、本当に互いの自己紹介のようなもの。野球の話はもちろん、出身地の話をした記憶もある。「(空腹が)我慢ならなかったんでしょうね。僕も記者の人に、自分から『ご飯に行きましょう』とか言ったの初めてでしたよ」。初対面の時から、板東の人懐っこさを本当にリスペクトした。

 板東本人は、「自分では人見知りだと思っています」と笑う。そんな性格が大きく改善されたのが、JR東日本時代だったという。18歳で親元を離れ、年上しかいない社会に飛び込んだ。「めちゃくちゃ色々思うことありましたよ。自分ってこんなに何もできひんのやって気付かされました」。社会人としての礼儀、目上の人への配慮などを考えていくうちに、自然と人との距離感を大切にしていく意識が身についた。

「同期入団、同期入社の人も全員が4歳以上、年上で。僕も心から頼れる人がいなかった。とはいっても、めちゃくちゃ仲良くしてくれて、その後に仲良くなれたんですけど。(入社当時は)本当に心細かったなっていうのは覚えていますね。初めて会う人ばかりでしたし、それまでは、自分が好きなように生きていても(周囲が)気にかけてくれたけど、社会人はそうもいかなくて。自分から行かないと、誰も相手にしてくれないっていうのはありましたね」

 2018年ドラフト4位でプロ入りし、同期入団は育成も含めて11人。奥村政稔投手に次いで年長だったこともあり、「結構、自分から行った印象もあります。(甲斐野)央もいましたけど、社会人卒だからしっかりしないとって思った記憶はあります」。JR東日本の5年間で培ったものは、プロでも年下の選手を引っ張る意識につながっていた。

 連載取材を続ける中で、板東の人柄を少しずつ理解できるようになっていった。今年8月に取材をした時、質問したのは「同級生をなんて呼んでいますか?」。やり取りの中で、私が「仲のいい人はみんな、下の名前で呼んでくれる」ということを伝えると、板東は去り際に頭を下げてきた。「またお願いします、岳さん」。こんなにもさりげなく、人の心に飛び込める板東の優しさを、心から素敵だと思った。

 選手との仲が深まっていけば、記者は自然と活躍を願うもの。競争が存在することはもちろん、どの選手にも生活があり、活躍してほしい思いはある。その中でも、板東に「活躍してほしい」という思いが、私の中で強くなっている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)